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第22話塑像製作演習~轆轤の罠~(終話)

塑像製作演習~轆轤の罠~(終話)

いままつ



「見た? あの慌てよう。マジ受ける」由里が腹を抱えて笑っていた。

「いい仕返しが出来て良かったね」飛鳥先輩がケタケタ笑っている。

 しかし、当の本人のカンナは納得していないよう、眉をハの字にした。

それから「私、もう一度ババロア作る」と言った。

「え? もう一度って、誰に作るの?」ミホが確信を突いてくる。私は彼女を見た。

 お菓子の恨みはお菓子で晴らさないと、ね。

 それから数日間は授業終わりに芸犯の部室にお菓子キットを用意してのババロア特訓が行われた、試作品は自分たちで食べたり、出来のいいものは依頼人のお茶請けに出したりもした。

試行錯誤すること2ヵ月。遂にババロアは完成した。

「あ、味見してちょうだい」

 そう言われ、私たちババロアを試食した。

「うん、美味しいよ」

「冷たくて、季節的にもいいね」

「にしても、まだあのサイテー男が気になる訳? 前回のことがあるんだから、忘れなさいよ」由里がざっくりと両断する。

「べ、別に気になんかしていないわよ。……ただ」

「ただ? なによ」

「やだ、みんなが協力して作ったババロアをないがしろにされたのが悔しいだけ。アイツから『マジ旨い』って言葉を引き出してやるんだから!」


次の日。

塑像製作演習の終わり、今度は堂々と他の学生がいる中で声をかけた。

「何? 風間さん? 俺、今忙しいんだけど」

確かに原田は一番遅れを取っていた。何故ならゴキブリ騒動で、それまで作っていた作品を没にしたからだ。他の学生の進捗状況と比べると、優に5時間は後れを取っていることが私にはわかった。

だが、それが何だというのだろう。5時間遅れていようが、他の生徒のまえだとか、そんなこと関係ない。

「はい、これ」そう言いながら私は紙袋を一つ、彼に渡した。

「これは?」

「私特製のババロア」それから凄みを利かせ「食べないと、どうなるか知ってるわよね」

 原田政市の顔が、さっと、青くなった。

(終)


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