絵画Ⅱ~三つの季節~(1)
いままつ
円先輩、食べてください」そう言いながら私は家で作ってきたくず餅を、夕日輝く窓辺のベンチで読書をしている大学院生の環円先輩に差し出した。今、部室には私と円先輩しかいない。これはチャンスである。
しかし、いつもなら柴犬のように尻尾をフリフリさせて食らいつくと言うのに、今日に限って食いついてこない。お腹でも壊したのであろうか?
すると192センチメートルある巨躯を起こしながら近づいてくる。
どんと、女子がときめく通称『壁ドン』をしてみせた。ドキッとした。
わ、私は円先輩のことはこれっぽっちも、とは言わないけれど……。ちょっと見れば美形で男前だし、腕っぷしも強くて頭も切れる。体も大きいし、今みたいに壁ドンなんてやられたら、普通の女子はイチコロだろう。
「ーーで?」
ん? なんか言われた。
「お前が無償で手間のかかるくず餅を作ってくるわけなんかない。何か裏があるんだろう?」
見透かせれていた。それほど単純な手だったのだろう。
「ははは。バレましたか」
「もろバレだ」
そこへ、拓哉先輩が、黄色い渦を巻いてやってきた。
「ミホちゃーん、今日もかわいいね! お! 俺とのお近づきの印のデザートかな?」
そう言いながら手を伸ばしてくる。その手を払い除けて「まあまあ、座ってください」と、長身の先輩二人を応接セットに座らせる。
「実は、ちょっと困ってるんです」と前置きをして、本当に困っていると醸し出す。
「ま、話ぐらい聞こう」そう円先輩は言い、聞き耳を立てた。
まあ門前払いを喰らうよりはマシか……。そう思い、私は、ちょっとした困りごとを話した。
((続)