絵画Ⅱ~三つの季節~(終話)
いままつ
後日。
「わーい! ミホちゃんがアップルパイ作ってくれたよ!」拓哉先輩が子どものように喜んだ。まあ、アップルパイは得意なスイーツだから期待していてもらって構わないのだが。
「あれ? 円先輩いないんですね」そう。窓辺の椅子でいつも本を読んでいる円先輩がいないのだ。ただ、それだけで、心にポッカリと穴が空いたように感じた。
「ああ、円はまだ種田先生のところで修士論文の指導を受けてるよ。まさか大学院でも鬼教官を選ぶとは、円も変わってるよね。ハハハ!」
そのとき、スッと1つの影が拓哉先輩の背後に現れた。
「石井君。誰が鬼教官だって?」
その声だけで部室全体の時間が止まったようだった。
拓哉先輩が、まるでギミックを動かすように首を捻る。背後にいたのは、種田教授だった。
「種田先生……」
「ほほう。美味しそうな匂いがしますね。今日のデザートはなんですか?」
「え? あ、アップルパイです」
「それはそれは美味しそうです。ねえ、石井君」
「はいいー!」
そこへ円先輩がやってきた。
「いい匂いだな。って、なんで拓哉が土下座してんだ?」
それは説明が難しいので割愛した。
由里と飛鳥先輩、それから遅れてカンナがやってきた。みんなでアップルパイを切り分け、拓哉先輩や由里たちがアールグレイを淹れた。
アップルパイを食べながら「円先輩〜、この部室に家庭用オーブンを置いてください。そうしたら、いちいち家でスイーツを作ってこなくても、ここでできたてを食べれるんですよ」
しかし、円先輩は簡単に首を振らない。「その、だな、芸犯はサークル活動だから部費が少なくてな。いま貯金はしてるんだ」
「今いくらあるんですか?」
「5000円」
「はあ⁉」私は立ち上がってしまった。
(終)