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第27話絵画Ⅱ~三つの季節~(終話)

絵画Ⅱ~三つの季節~(終話)

いままつ



後日。

「わーい! ミホちゃんがアップルパイ作ってくれたよ!」拓哉先輩が子どものように喜んだ。まあ、アップルパイは得意なスイーツだから期待していてもらって構わないのだが。

「あれ? 円先輩いないんですね」そう。窓辺の椅子でいつも本を読んでいる円先輩がいないのだ。ただ、それだけで、心にポッカリと穴が空いたように感じた。

「ああ、円はまだ種田先生のところで修士論文の指導を受けてるよ。まさか大学院でも鬼教官を選ぶとは、円も変わってるよね。ハハハ!」

そのとき、スッと1つの影が拓哉先輩の背後に現れた。

「石井君。誰が鬼教官だって?」

その声だけで部室全体の時間が止まったようだった。

拓哉先輩が、まるでギミックを動かすように首を捻る。背後にいたのは、種田教授だった。

「種田先生……」

「ほほう。美味しそうな匂いがしますね。今日のデザートはなんですか?」

「え? あ、アップルパイです」

「それはそれは美味しそうです。ねえ、石井君」

「はいいー!」

そこへ円先輩がやってきた。

「いい匂いだな。って、なんで拓哉が土下座してんだ?」

それは説明が難しいので割愛した。

由里と飛鳥先輩、それから遅れてカンナがやってきた。みんなでアップルパイを切り分け、拓哉先輩や由里たちがアールグレイを淹れた。

アップルパイを食べながら「円先輩〜、この部室に家庭用オーブンを置いてください。そうしたら、いちいち家でスイーツを作ってこなくても、ここでできたてを食べれるんですよ」

しかし、円先輩は簡単に首を振らない。「その、だな、芸犯はサークル活動だから部費が少なくてな。いま貯金はしてるんだ」

「今いくらあるんですか?」

「5000円」

「はあ⁉」私は立ち上がってしまった。

(終)


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