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第29話装飾美術 ~天使の泪~(2)

装飾美術 ~天使の泪~(2)

いままつ


「『天使の泪』素敵よね。ミホもそう思わなかった?」由里にそう問われると、頷くしかない。

「私、サファイアとか、もっと青い宝石が好きだったんだけど、あのアクアマリンも、とっても綺麗だったわ」カンナもうっとりとした表情になる。心を奪われたようだ。

ここは芸犯の部室。芸犯とは『芸術犯罪解決サークル』の略で、大学院生の身長192センチメートルもありながらネズミのように小さな心を持つ環円先輩を筆頭に、同じ大学院生の石井拓哉先輩、そして油絵学科2年の私こと大地字ミホが部員として登録しているのだが由里やカンナ、飛鳥先輩も、自由にこの部室を使っていた。

「ミホー、そろそろ先輩たち来るんじゃない? 何かスイーツ用意しないと」

「んー、そうだね。じゃあ、2人とも、ちょっと手伝って」

そういい、私はキッチンスペースにある冷蔵庫へと向かった。中から3つのトレーを取りだす。

「カンナ。食器棚から皿出して」

「はーい」

「由里は適当に白い寒天砕いて」

「はーい」

それから私は赤と青に着色した寒天を適当に砕き、由里の白い寒天とともに皿に盛り付け、最後にこしあんを乗せた。

暑い日は冷たいものに限る。

「お、お前ら居たのか」そう、円先輩はやってきた。

「ミホちゃん! 僕のためにスイーツを作ってくれたんだね」拓哉先輩がテンション高めに近寄ってくる。

「いえ。食べたいので作りました」バッサリと拓哉先輩を否定する。

「今日のスイーツは、なんだか綺麗なカラーリングだな」

「ちょっと『装飾美学』で見たジュエリーをイメージしてみました」

「確かに綺麗ね。あ、これ『天使の泪』でしょ」

「『天使の泪』って?」

私たちは円先輩と拓哉先輩に『天使の泪』を説明した。

「へ〜、そんな講義があるんだ」

あるんだ?

「え? 先輩たちは受けてないんですか?」

すると拓哉先輩が頷いた。

「俺たちが入学した次の年にカリキュラムが改編されてね。なくなった科目があれば、新しくできた科目もあったんだよ」

「へー、そうなんですね」

「もったいないですね、先輩たち。『装飾美学』、女子たちの中ではかなり注目されてますよ」カンナが言う。

「えええ! ってことは、ほとんど女子!?」

「う〜ん、まあ、ほぼほぼ女子ですね」

「ううう……! 羨ましい!!」

一気に部室内の気温が上がったように感じた。

(続)


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