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第33話装飾美術 ~天使の泪~(終話)

装飾美術 ~天使の泪~(終話)

いままつ


「ミホ! やったわね」

「ほんと。でも、なんで分かったの?」

私はテヘと舌を出してみせた。「あのオーナー、私たちが来てから一度も立とうとしなかったじゃない。だから思ったの。立とうとしないんじゃない、立てないんだと。で、その原因はなんだと思ったら杖が使えないんだと気がついたの。杖を使えば、さっきみたいに『天使の泪』が杖の中でぶつかり合う音が響いちゃうからね」

「いい読みだったな」

「ホントだよ! さっすがミホちゃん」

私は円先輩に向き直った。「でも理由までは分かりませんでした。よく保険金目当てだと分かりましたね、円先輩」

円先輩は少し恥ずかしそうに頬をかいた。

「まず『天使の泪』を手に入れるための犯行だとは思ったが、和泉さんの話の中に『黒いフードを被った2人の男』がでてきた。彼らは一体何者なのか。しかも前後の言葉から、オーナーはこの二人の素性を知られたくなかった。そう考えると、少しずつ見えてくるだろう」

なるほど。金融機関、それも悪徳の。儲け話を考えた末の悪行だったのだ。

「オーナーを信じた私がバカでした。オーナー、私はあなたを詐欺未遂で刑事告訴します」そう和泉さんが言うと、先ほどまでの威厳はどこに行ったのか、オーナーは和泉さんの足にすがり、「そ、それだけは許してくれ、この通りだ」と、最終的に土下座をした。

「知りません。牢屋で頭を冷やしてください」と言った。

和泉さんはそれからこちらを見て「ありがとうございました。とても助かりました」

「いえ、これも芸犯の仕事です」そう言う円先輩の背中はカッコよかった。


エピローグ


次の週の『装飾美学』の講義は別の宝石店のオーナーがやってきた。パッとした講義ではなかったが、誕生石や占星術、歴史的に見た宝石の活利用と価値の変遷など、ただ宝石を見せられるよりも十二分に楽しめる内容だった。

特に女子は占星術に興味を持っていた。

「いや〜、『装飾美学』楽しかった」カンナ

「先週とは全然違かったね」由里

「こっちの方が私好きだな」私

「やっぱ、先生が違うと講義も違うね。じゃあ、私、石彫(ほ)らないといけないから」

「あ、私も絵を描かないと」

そう言い、私たちはバラバラに別れた。

私は芸犯の部室にやってきた。部室には私一人。今日のスイーツ何にしようか、毎日の悩みである。寒天ぜんざいは先週出してしまった。ゼリーを出したら『またか』と言われたときは我慢の糸が切れそうになったが、どうにか踏みとどまった。

今日はスーパーで安売りしていたメロンソーダとアイスクリームでメロンクリームソーダにしようとしていた。手抜きにはとてもいい。ソーダとアイスクリーム、氷をキンキンに冷やせばいい。しかし、明日のスイーツの案がまだだ。こうなったら冷やし中華でも作ろうかと思ったが、いかんせん、冷やし中華はスイーツではない。

頑張って捻り出すしかない。とりあえずしばらくの私の課題であることは確かであった。

(終話・終)


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