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第35話仏教美術 ~気になる男子(あのこ)~(2)

仏教美術 ~気になる男子(あのこ)~(2)

いままつ


仏教美術の担当の多田教授が授業の終盤に「では、二週間後までに、博物館、または寺社などへ行って、どのような歴史や文化が日本に根付いていたのかをまとめたレポートを提出してください」と言って講義を締めた。

講義と関係ないけど、カンナか由里と一緒に行こうかな……。

しかし、きっと二人を誘うと「片山田くんは?」と言われる可能性が高い。

どうしようかな。一人で行こうかな。

スマホを取り出して、最寄りの博物館や寺社を調べた。ちょうど、山吹市の山吹市立博物館で仏像展をやっているようだった。

まあ、たまには一人でテクテク散歩がてら行くのもいいわね。

そう思っていると「おーい、大地字さん」唐突に廊下の奥から片山田くんが手を振って迫って来た。

「な、何? 片山田くん?」

少し声に緊張を含ませた。しかし、彼はそのことに気づいていないようだ。

「レポート出されちゃったね。一緒に博物館に行かない?」

デデデ、デート???

ししし、しかもダイレクトに!

私は否定したかった。しかし、脳裏に、あの微妙な態度の円先輩が厭にムカついた。否定するのなら否定してほしかった。カッコつけていないで、「行くな」と一言言ってほしかった。

「い、いいわよ」私のバカ。

「それじゃあね……」そう言うと片山田くんはスマホを操作した。


※※※


日曜日の午前十時。駅前の誰をモデルとしたのか分からない銅像の前で、私たちは待ち合わせをした。

へ、変じゃないよね……。

私は普段着ないスカートを身にまとってみた。スカートなど履いていたら、校舎三階にある部室までデザートを運ぶのが難しくなるからである。

ピンクを選んだのは挑戦のし過ぎだろうか? 別に「似合ってるね」などと言われたいのではない。

ただ、ただ、ただ……ただ?

自分の中でもその理由は分からなかった。ただ一つだけ言えるのは……私、『女子』になってる‼

ちゃっかり化粧もしているし……ファンデーション崩れてないよね? 今日暑いし。

慌ててコンパクトを取り出して見る。何とかセーフ。

腕時計を見る。あと五分で電車が来るのに、片山田くんは現れない。スマホを見ても連絡が来ていない。

約束の日を間違えたかな?

そんなふうに思い始めたときだ。遠くから「おーい、大地字さーん……」と、情けなく私を呼ぶ声が聞こえてきた。

振り向くと片山田くんが、へなへなとやってきた。

「片山田くん、どうしたの? 汗だらけじゃない」

「理由は後で……電車に乗ろう」

「え? うん。そうね」

私たちは急いでホームへと向かった。と、ちょうど電車がやって来た。ギリギリセーフである。

息を切らしながらソファに腰掛ける。そのとき、隣の車両にも駆け足で数人が乗り込むのが目に入った。私たちだけじゃないのだと笑いがこみ上げてくる。

「で、時間ぎりぎりだった理由は何だったの?」

 すると、片山田くんは「いや、その、楽しみで、昨日の夜はぜんぜん寝れなくて――」

そう言いながらはにかむ彼が、可愛かった。

(続)


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