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第36話仏教美術 ~気になる男子(あのこ)~(3)

仏教美術 ~気になる男子(あのこ)~(3)

いままつ


五駅ほど進んだ二つ隣の山吹市の駅に降り立ち、博物館に行く前に昼食を摂ることにした。

ここは博物館隣の『始亭(はじまりてい)』という洋食屋だった。

片山田くんはカレーライスを、私はオムライスを注文した。

「美味しいね、大地字さん」

「え? ああ、うん」

いや、食べてるもの違うから美味しいかわからんし。

そうは思っても口に出すことはできない。『手厳しい女』だと思われたくはなかった。

なんか、猫被ってる? 私。

食事を摂っていると来店客を知らせるチャイムが鳴った。振り返ってみると、ダークスーツに細めのサングラス。巨躯でコワモテ、しかし、一目でイケメンであるとも分かる人物とその僕(しもべ)であろうか四〜五人がサッと出入り口近くの席に座った。

その中のひとりは中世ヨーロッパ風の淡い青いドレスを着ていた。

疑問に思いかけていると「ごちそうさまでした」と言う声がした。片山田くんがカレーを食べ終えたのだ。

「大地字さんも、早く食べないと見学する時間なくなっちゃうよ」

「え? あぁ、うん」

なんだか違和感を感じる。片山田くんのペースについていけない……。

そう思いながら、モグモグとオムライスを食べる。


※※※


さあ、チケットを買って入ろう! そう思ってカウンターへ……向かうのだが、あれれれれ? 片山田くんはこれもまた別方向へ。

「どこ行くの?」

彼を追うと、そこは博物館内の売店だった。

「これこれ。これが欲しかったんだよ」そう言いながら手にしたのは、今この博物館で行われている企画展の図録だった。

「これさえあれば、もう充分。さ、帰ろう。大地字さん」

私は耳を疑った。

「え? 帰るの? 展示物、観ていかないの?」

すると片山田くんはしれっと「うん」と答えた。

「で、でも、ここまで来たし、しかもレポートを書くのに、さすがに図録だけじゃ情報不足じゃ……」

だが片山田くんは折れない。

「先生だってすべての博物館の展示を観てるわけじゃないし。ヘーキヘーキ」

片山田くんはけっこうビッグハートを持っているようだ。

私はそんな中途半端な片山田くんに諦めのため息をついた。

「いいわ。私は観てくるから、片山田くんは帰っていいわよ」

「ええ⁉ そんな」

私は片山田くんと別れて展示室に入った。

導線に沿って歩くこと三十分。出口には片山田くんが待っていた。

「女の子残して先に帰ったら……カッコ悪いじゃん」

笑いそうになった。一応プライドがあるらしい。

「お待たせ」

そのときだった。ゾワッと鬼気迫る気配をどこから感じた。

(続)


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