仏教美術 ~気になる男子(あのこ)~(3)
いままつ
五駅ほど進んだ二つ隣の山吹市の駅に降り立ち、博物館に行く前に昼食を摂ることにした。
ここは博物館隣の『始亭(はじまりてい)』という洋食屋だった。
片山田くんはカレーライスを、私はオムライスを注文した。
「美味しいね、大地字さん」
「え? ああ、うん」
いや、食べてるもの違うから美味しいかわからんし。
そうは思っても口に出すことはできない。『手厳しい女』だと思われたくはなかった。
なんか、猫被ってる? 私。
食事を摂っていると来店客を知らせるチャイムが鳴った。振り返ってみると、ダークスーツに細めのサングラス。巨躯でコワモテ、しかし、一目でイケメンであるとも分かる人物とその僕(しもべ)であろうか四〜五人がサッと出入り口近くの席に座った。
その中のひとりは中世ヨーロッパ風の淡い青いドレスを着ていた。
疑問に思いかけていると「ごちそうさまでした」と言う声がした。片山田くんがカレーを食べ終えたのだ。
「大地字さんも、早く食べないと見学する時間なくなっちゃうよ」
「え? あぁ、うん」
なんだか違和感を感じる。片山田くんのペースについていけない……。
そう思いながら、モグモグとオムライスを食べる。
※※※
さあ、チケットを買って入ろう! そう思ってカウンターへ……向かうのだが、あれれれれ? 片山田くんはこれもまた別方向へ。
「どこ行くの?」
彼を追うと、そこは博物館内の売店だった。
「これこれ。これが欲しかったんだよ」そう言いながら手にしたのは、今この博物館で行われている企画展の図録だった。
「これさえあれば、もう充分。さ、帰ろう。大地字さん」
私は耳を疑った。
「え? 帰るの? 展示物、観ていかないの?」
すると片山田くんはしれっと「うん」と答えた。
「で、でも、ここまで来たし、しかもレポートを書くのに、さすがに図録だけじゃ情報不足じゃ……」
だが片山田くんは折れない。
「先生だってすべての博物館の展示を観てるわけじゃないし。ヘーキヘーキ」
片山田くんはけっこうビッグハートを持っているようだ。
私はそんな中途半端な片山田くんに諦めのため息をついた。
「いいわ。私は観てくるから、片山田くんは帰っていいわよ」
「ええ⁉ そんな」
私は片山田くんと別れて展示室に入った。
導線に沿って歩くこと三十分。出口には片山田くんが待っていた。
「女の子残して先に帰ったら……カッコ悪いじゃん」
笑いそうになった。一応プライドがあるらしい。
「お待たせ」
そのときだった。ゾワッと鬼気迫る気配をどこから感じた。
(続)