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第37話仏教美術 ~気になる男子(あのこ)~(終話)

仏教美術 ~気になる男子(あのこ)~(終話)

いままつ


帰路。

電車に揺られているうちに、隣に座る片山田くんはウトウトと眠り込んでいた。


――女の子残して先に帰ったら……カッコ悪いじゃん。


そんなこと言っときながら、まるで子どもね。

そんなふうに思っていると、目的の駅の一つ前の白沢駅に着いた。

あと一駅、と思っていると、私の二つ隣、片山田くんの隣に座っていた筋骨隆々の男性が、片山田くんの持っていたトートバッグをおもむろにつかみ駆け出したのだ。

一瞬、反応が遅れた私だったが、「誰か!」と叫ぶと、隣の車両から猛スピードで駆け出す人物がいた。食堂で見た黒スーツの人物だ。

その人物は犯人を捕らえると引きずり倒した。

「なんだてめぇ」

先に言われた。それはこっちの台詞だ。

犯人は起き上がると、盗んだ片山田くんのトートバッグを投げ捨て、ボクシングポーズを構えてみせた。するとスーツの男性もボクシングポーズを構えた。

「てめぇ……」

そう言うと、犯人は思いっきり右腕を振りかざして突進してきた。

だが、スーツの男性は、ヒラリと意図も容易く躱すと、お返しとでも言うように犯人の腹に強力なアッパーを喰らわせた。

よろめく犯人。しかし倒れない犯人。

犯人とスーツの男性の連撃が炸裂する。

当然、電車はストップ。駅員が警察を呼ぶ声が聞こえた。

犯人が振りかざした拳がスーツの男性の顔をかすめた。サングラスが砕け、その顔があらわになった。

「円先輩!」

スーツの男性は円先輩だった。

円先輩の右ストレートが犯人の顔面に入った!

犯人は、今度こそ、その場に崩れ落ちた。


※※※


次の日。

「円先輩、昨日はありがとうございました」そう言いながら、お手製のシフォンケーキを差し出した。

「……うむ……」そうとしか言わない。否定も肯定もしない。円先輩の好物がシフォンケーキだということは、これまでの経験で知っていた。下手なことを言って取り上げられたくはないのだろう。そこはちょっと考えが幼い。

「ホント、凄かったぁ、あの激闘」カンナが言う。

「ボクシングやっていたんですか?」由里が訊く。

すると、シフォンケーキを食べて「ウマ!」と言葉を零していた拓哉先輩が「以前、デッサンのときに言ったけど、円はスポーツなら何でもやるんだ。もちろんボクシングや空手もやっているさ。なー、円」

円先輩は無言でシフォンケーキを口にした。「うむ。旨い」

「だけど、ミホ、あんた私たちがつけていたというのに、そんなに驚いていないわね」

「うん。だって、飛鳥先輩がブルーのドレスを着ているのを見ちゃったからね。あ、つけて来たと気付いたの」

 飛鳥先輩は、しまった、という顔をした。

そのとき、トントントンと部室のドアがノックされた。

「誰かしら?」飛鳥先輩がドアを開けた。

そこには片山田大毅くんが立っていた。「失礼します。環先輩はいらっしゃいますか?」

私が『この人』と私が指を差す。

片山田くんは円先輩へと近づき、思いっきり頭を下げた。

「環先輩。昨日はありがとうございました」

「ん? 大したことじゃない」

 素直になればいいのに。

片山田くんは、何か覚悟を決めたように、もう一度、頭を下げた。

「もしよろければ、芸犯に入部させて下さい!」

私たちは声をそろえて「ええええええ!」と叫んでしまった。その中には円先輩もいた。先輩にとっても、これは意外だったようだ。

「環先輩、超カッコよかったです。俺も先輩のようになりたいです」

(終話・終)


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