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第38話写真論Ⅱ ~未来の姿~(1)

写真論Ⅱ ~未来の姿~(1)

いままつ


片山田くんが芸犯の門を叩いてから、一週間が経った。仏教美術のレポート提出まで、あと、一週間ある。片山田くんは展示を見ていないが、私は見学した。実物だけでなくパネル展示は、いい資料だった。だから、少なくとも片山田くんよりはいいレポートを書かなければならない。

これは私のプライドである。

今日の講義は終わった。芸犯の活動まで、実質三時間ある。図書館に行ってレポートを書こうかな?

そんなふうに悩んでいると「あれ? ミホちゃん?」と呼び止められた。

この声は飛鳥先輩だ。奇遇だな、こんなところで会うなんて。

「こんにちは、飛鳥―—」と言いかけて、私の思考は急ブレーキをかけた。そこには十二単を身に纏った女性がいた。

「あ、あ、あ、飛鳥先輩⁉」

飛鳥先輩は、まるで「どうしたの?」と言いたそうに首を左に傾けた。

私は狼狽えながら「どうしたんですか、その十二単!」と迫った。

「ああ、これ? 今からコスプレ会の撮影会があるのよ」

コスプレ会?

「何ですか? その集まりは?」

「コスプレ会はコスプレ同好サークル会よ。あ、そうだ! ミホちゃんも来てみない」

ん? 来いと言ったか?

「え、いえ。ご迷惑になりますから……」

本当は行きたくないだけである。

「いいから、いいから。みんな気さくだから大丈夫よ」

だ〜か〜ら〜、ち〜が〜う!

そう叫びたかったが、この声は言葉にならなかった。

ズルズルと私の意に反して引っ張っていく……恐怖!


※※※


「みんなー。後輩つれてきたよー」

そこは服飾実習室。マネキンやミシンなどがところ狭しと置かれた机、その真ん中の机に四人の男女がいた。

しかし、私は観てはいけないものを見てしまったように「ひっ」と息を呑んだ。 

真ん中にいたのは、なんと鬼の面を着けた人物だった。

その鬼が言う。「飛鳥くんか。そちらの人物は?」

「見学者です」

私は急いで「いいえ、付き添いです」と述べる。飛鳥先輩のその手には乗らない。

飛鳥先輩も「ちっ」といった表情をする。ダークな人物だ。

「あれ? あなた」と、ナース服を着た人物が近寄ってきた。何ともセクシーな女性だ。男ならイチコロであろう。

……私も試してみようかな?

「確か芸犯の人よね? 私は園芸科の広瀬と言うわ。以前、園芸科の実習場に調査に来たわよね」

「は、はい。昨年はお世話になりました」昨年、園芸科の謎に芸犯がかかわっていたのが知られていたらしい。

「飛鳥くん。君、芸犯の知り合いがいたのか……」

「津野くん。私も芸犯のメンバーですよ」

「いえ、飛鳥先輩は仮部員です」

そこに残りの二人……ライオンの被り物にスーツの男性とドラキュラの姿の女性がやってきた。どう考えても十二単はおかしい。

「部長、芸犯になら依頼してもいいのでは?」

「う、うむ」

依頼? 何かあったのだろうか?

「実は……」

(続)


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