写真論Ⅱ ~未来の姿~(1)
いままつ
片山田くんが芸犯の門を叩いてから、一週間が経った。仏教美術のレポート提出まで、あと、一週間ある。片山田くんは展示を見ていないが、私は見学した。実物だけでなくパネル展示は、いい資料だった。だから、少なくとも片山田くんよりはいいレポートを書かなければならない。
これは私のプライドである。
今日の講義は終わった。芸犯の活動まで、実質三時間ある。図書館に行ってレポートを書こうかな?
そんなふうに悩んでいると「あれ? ミホちゃん?」と呼び止められた。
この声は飛鳥先輩だ。奇遇だな、こんなところで会うなんて。
「こんにちは、飛鳥―—」と言いかけて、私の思考は急ブレーキをかけた。そこには十二単を身に纏った女性がいた。
「あ、あ、あ、飛鳥先輩⁉」
飛鳥先輩は、まるで「どうしたの?」と言いたそうに首を左に傾けた。
私は狼狽えながら「どうしたんですか、その十二単!」と迫った。
「ああ、これ? 今からコスプレ会の撮影会があるのよ」
コスプレ会?
「何ですか? その集まりは?」
「コスプレ会はコスプレ同好サークル会よ。あ、そうだ! ミホちゃんも来てみない」
ん? 来いと言ったか?
「え、いえ。ご迷惑になりますから……」
本当は行きたくないだけである。
「いいから、いいから。みんな気さくだから大丈夫よ」
だ〜か〜ら〜、ち〜が〜う!
そう叫びたかったが、この声は言葉にならなかった。
ズルズルと私の意に反して引っ張っていく……恐怖!
※※※
「みんなー。後輩つれてきたよー」
そこは服飾実習室。マネキンやミシンなどがところ狭しと置かれた机、その真ん中の机に四人の男女がいた。
しかし、私は観てはいけないものを見てしまったように「ひっ」と息を呑んだ。
真ん中にいたのは、なんと鬼の面を着けた人物だった。
その鬼が言う。「飛鳥くんか。そちらの人物は?」
「見学者です」
私は急いで「いいえ、付き添いです」と述べる。飛鳥先輩のその手には乗らない。
飛鳥先輩も「ちっ」といった表情をする。ダークな人物だ。
「あれ? あなた」と、ナース服を着た人物が近寄ってきた。何ともセクシーな女性だ。男ならイチコロであろう。
……私も試してみようかな?
「確か芸犯の人よね? 私は園芸科の広瀬と言うわ。以前、園芸科の実習場に調査に来たわよね」
「は、はい。昨年はお世話になりました」昨年、園芸科の謎に芸犯がかかわっていたのが知られていたらしい。
「飛鳥くん。君、芸犯の知り合いがいたのか……」
「津野くん。私も芸犯のメンバーですよ」
「いえ、飛鳥先輩は仮部員です」
そこに残りの二人……ライオンの被り物にスーツの男性とドラキュラの姿の女性がやってきた。どう考えても十二単はおかしい。
「部長、芸犯になら依頼してもいいのでは?」
「う、うむ」
依頼? 何かあったのだろうか?
「実は……」
(続)