グラフィックデザイン演習Ⅰ~策略~(1)
いままつ
私はパソコンの前に鎮座していた。とは言っても自宅のパソコンではない。大学のコンピュータ演習室の『17番』とナンバリングされたパソコンである。
仏教美術のレポートはどうにか期限内に提出できた。片山田くんが間に合ったかは知らない。他人のレポートの進捗状況まで心配しているほど、私は暇ではない。
ちょっと冷たいかな?
この『グラフィックデザイン演習Ⅰ』は教職教科目の一つである。美術科の免許取得にはパソコンも学ばなければならない。時代が時代だ。いまは何でもコンピュータである。
そして、正直言って、私はコンピュータに詳しくない。Wordでレポートを作成するのが限界である。つまりは、私はアナログ人間なのだ。絵はマウスではなく筆で描きたい人間なのだ。
「はぁ〜目が痛い」
私は目頭を押さえた。
「ほんとよね〜」
隣に目を移すと、いつの間にか飛鳥先輩が座っていた。
「……なんで飛鳥先輩がここに?」
素朴な疑問だった。
「やだ〜あ、ミホちゃんたら。私がここにいる理由なんて一つに決まってるじゃない」
「……落としてたんですね、この科目の単位」
ウンと、先輩は頷いた。
まあ、片山田くんの心配云々ありきで先輩の心配云々もしている場合ではない。
アナログ・ミホもこの科目は踏ん張りどころである。
※※※
「で、課題はできたのか?」
そう、私特製のサーターアンダギーを頬張るのは院生で、芸犯部長の円先輩である。
「なんとか……って、先輩もグラフィックデザイン演習Ⅰを履修したんですか?」
円先輩は無言で、コクンと頷いた。
「何分、課題が多い授業だとは思った」
「と、言うことは、先輩も教職課程を取っていたんですね?」
これまた黙り込んで、コクンと頷く。
私は頭の中で、美術教師の円先輩をイメージした。
イメージした。
イメージ……した……。
イメージできない!!
「まあ、課題を欠かさずに提出していれば、単位を落とすことはまずない科目だ。心配するな」
「ハハハ……頑張ります」
そのときだった。部室のドアがバン! と、勢いよく開かれた。
息を切らした由里がいた。
「やられた!」
やられた?
「由里、やられたって、何が?」
「パソコンがやられた!」
(続)