グラフィックデザイン演習Ⅰ~策略~(2)
いままつ
由里は私とは違い、パソコンを巧みに駆使していた。私にはチンプンカンプンな用語を話すと、「そうか」と私ではなく円先輩が受け答えしていた。どうやら円先輩に任せたほうがよさそうだ。
「で、主訴は何?」
「ハッキングされて、作品のデータを盗まれたのよ〜。これからの講義の分を先に作っていたのに!!」
私の脳裏には、『絵画Ⅰ』で飛鳥先輩に作品案を盗まれたときのことを思い出した。
私は、人の作品を盗むことはサイテーだと思っている。どれだけの労力を、時間を、精神を、作品作りに捧げているのかを分かっていないのだろうか?
「しかし、まだ盗まれた作品データは悪用されたり、ネットに公開されたりはしていないようだな」
円先輩はスマホをいじりながら発言する。
だが、私は円先輩に言いたい。『だから何なのか』と。
悪用されたりネットに公開されたりしていなければ、それで良いのだろうか。
ーー許せない。
「由里、ハッキングされたパソコンとデータはある?」
由里は「それならこのパソコンよ」と、テーブルに開いて立ち上げていたパソコンを指さした。
「だけどデータは全部抜き取られちゃったの」肩を落とす由里。
「大丈夫。芸犯として、この事件を解決しましょう!」
※※※
「……と、いうわけで、この事件を捜査したいと思います」
「分かったわ」カンナ。
「やりましょう」飛鳥先輩。
「ゆゆゆ、由里ちゅわんの大切なデータを盗むなんて……許せん!」拓哉先輩。
そして、私、円先輩、当事者の由里の、芸犯メンバー総出で取り掛かることになった。
「そこで、詳しく話を聞きたいの」
由里は頷く。
「まず、ハッキングに気づいたのはいつ?」
「気づいたのは一時限目の教職論の講義が終わってから。図書館で別の講義のレポート書こうと図書館でパソコンを立ち上げたら気づいて……目の前が真っ白になったの」
「グラフィックデザイン演習Ⅰのデータだけど、いくつぐらい作成・保存していての?」
「だいたい10コマ分は作っていたかな。シラバス見て、先に作っていたの」
カンナが「パソコンにパスワードは設定していなかったの?」
すると由里はかしこまって「……一応はつけてたんだけど、忘れると嫌だから単純なものにしてたの」と答える。単純?
「……ちなみに?」
「……1234」
シーンと数秒間の『間』があった。
「ま……まあ、それは置いといて」私は仕切り直す。「どうやって調べたらいいのかしら。何かいい案はない?」
私の問いかけに女子陣は黙りこくってしまったが、拓哉先輩が手を挙げた。
「その点に関しては、もう解決したんじゃないかい?」
「え?」
私は耳を疑った。
(続)