グラフィックデザイン演習Ⅰ~策略~(終話)
いままつ
みんなが帰ったあと、円先輩が私を呼び止めた。
「よく分かりましたね、円先輩。由里の虚偽だと」
円先輩は首を振る。
「グラフィックデザイン演習の課題のデータを欲しがるハッカーがこの世にいるか?」
そう言われると、確かにそうである。一大学生の作るプログラム作品にどれほどの価値があるのだろうか。
「ハッカーが狙ったとしても、ただの嫌がらせでしかない。どう考えても盗む意味が見当たらないんだ。それに……」
「それに?」私は首をかしげる。
「例のパソコンをどう調べてもハッキングされた様子が見られなかった。つまり、窃盗事件は起きていない。つまり、盗まれた作品データは元から存在しなかったということになる」
パソコンにも精通しているとは……私には足りないスキルが多すぎる。
以前、拓哉先輩が苦学生であることは聞いたことがあったが、円先輩のことはあまり訊いたことがなかった。
「円先輩。先輩は一体何者ですか?」
すると円先輩は、私の声が聞こえているのか聞こえていないのか、窓辺に立つと十九時の空を見上げた。
「今日は、月が綺麗だな」
(終話・終)