戯曲・演劇~三人のヒロイン~ (1)
いままつ
確かに昨日の満月は綺麗だったなー……
そう思いながら、私はホットケーキミックスの入ったトートバッグを肩に下げて、芸犯部室に続く階段を上っていた。
時刻は十六時。いつもなら何かしらスイーツを作って仲間とテーブルを囲んでいる時間である。
しかし、私としたことが、スイーツの素となるものを準備していなかった。仕方がないので、急いで生協へ赴きホットケーキミックスを買ってきたのだ。ホットケーキミックスは万能だ。何にでも使える。
ホットケーキ、クッキー、クレープ生地……何にでも変化する。
満月だからホットケーキにするか。満月っぽく。
部室に入ると、先に来ていた由里に円先輩がパソコンで指示を出していた。
由里は、きのうグラフィックデザイン演習で「作品データを盗まれた」との偽の被害を訴えたのだ。そんなウソ、円先輩にすぐに見破られたのだが……。しかし、こうしてざっくりと切り捨てるだけではなく、ちゃんとバックアップするところが円先輩のいいところだ。ふと、そう思ってしまった。
「目が痛いです〜、円先輩」
「もとはと言えばお前のせいだろ」
叱咤される由里。自分で蒔いた種だ。涙の一つ流しても仕方ないだろう。
そう思う私も鬼だろうか?
「ミホちゃん、お帰り。売ってた?」飛鳥先輩はピンク一色の上下のジャージという出で立ちだ。某芸能人の後継者になれるだろう。
「はい、売ってました」
「じゃあ、やりましょう」
そう飛鳥先輩は言うと、キッチンスペースの棚から、ホットプレートを取り出した。
手際よく生地を作ると、熱したプレートに敷いた。
そのとき、「ミッホちゃ〜ん。お腹す空いたよ〜」
「先輩! 情けない声出さないでください!」
コントのような掛け合いで、拓哉先輩とカンナが現れた。
「きょ〜は、な〜に〜?」
「はいはい。今日はホットケーキ『ミホスペシャル』ですよ」
「おいしそう‼」
ミホスペシャル……ハチミツ、抹茶、あんこの三段重ねのホットケーキだ。もし、将来お店を持つなら1200円で提供しようと密かに考えていた。
まあ、店を開く予定は今のところないのだが。
よし、できた。
そう思ったとき、コンコンコンと、ドアがノックされた。
(続)