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第48話戯曲・演劇~三人のヒロイン~ (1)

戯曲・演劇~三人のヒロイン~ (1)

いままつ



確かに昨日の満月は綺麗だったなー……


そう思いながら、私はホットケーキミックスの入ったトートバッグを肩に下げて、芸犯部室に続く階段を上っていた。

時刻は十六時。いつもなら何かしらスイーツを作って仲間とテーブルを囲んでいる時間である。

しかし、私としたことが、スイーツの素となるものを準備していなかった。仕方がないので、急いで生協へ赴きホットケーキミックスを買ってきたのだ。ホットケーキミックスは万能だ。何にでも使える。

ホットケーキ、クッキー、クレープ生地……何にでも変化する。


満月だからホットケーキにするか。満月っぽく。


部室に入ると、先に来ていた由里に円先輩がパソコンで指示を出していた。

由里は、きのうグラフィックデザイン演習で「作品データを盗まれた」との偽の被害を訴えたのだ。そんなウソ、円先輩にすぐに見破られたのだが……。しかし、こうしてざっくりと切り捨てるだけではなく、ちゃんとバックアップするところが円先輩のいいところだ。ふと、そう思ってしまった。

「目が痛いです〜、円先輩」

「もとはと言えばお前のせいだろ」

叱咤される由里。自分で蒔いた種だ。涙の一つ流しても仕方ないだろう。

そう思う私も鬼だろうか?

「ミホちゃん、お帰り。売ってた?」飛鳥先輩はピンク一色の上下のジャージという出で立ちだ。某芸能人の後継者になれるだろう。

「はい、売ってました」

「じゃあ、やりましょう」

そう飛鳥先輩は言うと、キッチンスペースの棚から、ホットプレートを取り出した。

手際よく生地を作ると、熱したプレートに敷いた。

そのとき、「ミッホちゃ〜ん。お腹す空いたよ〜」

「先輩! 情けない声出さないでください!」

コントのような掛け合いで、拓哉先輩とカンナが現れた。

「きょ〜は、な〜に〜?」

「はいはい。今日はホットケーキ『ミホスペシャル』ですよ」

「おいしそう‼」

ミホスペシャル……ハチミツ、抹茶、あんこの三段重ねのホットケーキだ。もし、将来お店を持つなら1200円で提供しようと密かに考えていた。

まあ、店を開く予定は今のところないのだが。

よし、できた。

そう思ったとき、コンコンコンと、ドアがノックされた。

(続)

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