戯曲・演劇~三人のヒロイン~ (5)
いままつ
野呂紗佳が現れた。
「あら、ノーちゃん?」飛鳥先輩が呼んだ。ノーちゃん?
「飛鳥先輩、いらしてたんですね……」ノロは飛鳥先輩をみるとあからさまにテンションを下げた。何かあったのだろうか? 何かあっても飛鳥先輩の性格だ、気づいていない可能性がある。
野呂は我々を観ていいのか気づいていないのか、空いている化粧台の前に座るとメイクポーチを取り出し、化粧をし始めた。
「あ、あの野呂先輩……」
そう須藤が話しかけると、「分かってる」と、野呂が遮った。
「そこにいる人たちは、芸犯の人たちなんでしょ。飛鳥先輩が芸犯に入ってと聞いていたから」
感がよく働く人であると思った。そして、そっけない人であるとも。
「はい、これ。脅迫状。これが見たいんでしょう」
そう言って、野呂はA4用紙の脅迫状を差し出して、自分はメイクに戻った。
折り畳まれた脅迫状を開く。
ヒロインを辞めろ
痛い目に遭うぞ
内容的には他の二人と変わらない。文言が違うだけだ。
この脅迫状はいつ届きました?
「須藤くん話しといて。私、口紅塗らないといけないから」
そう言うと、野呂は口紅を塗り始めた。
須藤は小さくため息をつくと、「四日前に野呂先輩のロッカーに貼り付けられていました」と端的に答えた。
メイクを終えた野呂は「じゃ、練習行ってきまーす」と言い、風のように部室を出ていってしまった。
「野呂紗佳さんはあんな感じなんですか?」私は訊く。
「残念ながら、あんな感じです」須藤はうなだれながら答える。
部室には芸犯メンバーと須藤しか残っていなかった。
私は須藤に訊く。
「演劇部の部員は何人ですか?」
「四十人です」
「いまは何の練習をしているのですか?」
「いまは文化祭に向けて『ロミオとジュリエット』、それから僕の『枯葉屋のミリオ』の練習をしたいのです。ですが、キャスティングがまだなんです」
「文化祭って、あと四ヶ月でよね。間に合うんですか?」カンナが尋ねる。
須藤は手をモミモミさせながら
「なさんベテランですから」と言った。
(続)