戯曲・演劇~三人のヒロイン~ (7)
いままつ
次の日の十六時。演劇部室には須藤、大津、沢田、野呂、そして芸犯メンバーが集まった。須藤はおろおろとし、大津、沢田、野呂は落ち着きのなさを表すように四方八方へと視線を飛ばしたり、手を揉んだりしていた。
「まず」円先輩だ。「この事件は三層のティラミスだったんです」
「ティラミス?」演劇部員たちの頭に疑問符が浮かんだようだ。
「そう。下の層の人物が真ん中の層の人物に脅迫状を送り、次に真ん中の層の人物が上の層の人物に脅迫状を送った。そして最後に、上の層の人物が下の層の人物に脅迫状を出したんです。そうですよね、三人のヒロインたち?」
三人のヒロインたちは驚きの表情を浮かべた。しかし、誰も否定しないところを見ると、どうやら円先輩の読みは正解のようだ。
「そして、彼女らに、脅迫状を送りつけるように仕向けたのは、須藤くん、君だろ?」
「え?」須藤の顔に驚きの色が浮かんだ。
「きっと君はそれぞれのヒロインの前で『〇〇さんをヒロイン役にしたいがどうしようか』と迷っているように演じたんだ。君だって演劇部員。それぐらいは演じられるだろう?」
確かにそうだ。シナリオ担当と入っても、須藤だって演劇部の端くれだ。普通の人よりは演技力はあるはずである。
「……こいつらが悪いんだ」
「え?」
どうやら須藤の裏の顔が出てきたようだ。彼の目はどんよりと沈み込んでいた。
「ヒロイン役のヒロインだぞ。なのになんだ、この三人は! 高校のスケバンか? ふざけんなよ! ケバケバな化粧、幼稚で腹黒、無愛想な一匹狼……何がヒロインだ」
まくしたてる須藤。よほど鬱憤が溜まっていたのだろう。三人のヒロインは口を開くことすらできないようだった。
と、へそこへ勢いよくドアを開けて一人の男性が入ってきた。そして、バシン! と須藤の頬を平手打ちした。
須藤は、その場に倒れ込む。
「ぶ、部長……」
部長と呼ばれた男性は髪を後ろで縛り、顎に髭を蓄えていた。その目はギラリと光っていた。
「須藤、おまえは自分の役割をまったくわかっていない!」
「俺の……役割?」
「そうだ。それは、劇を通して役者一人一人を育てていくことだ」
「育てる? 俺が?」
演劇部部長は頷く。
「役者は演劇を通してでなければ成長しないんだ。愛情、復讐、悲哀、喜楽、大人、子ども、老人……。すべておまえの書く台本でヒロインたちは成長していくんだ。分かったか!!」
須藤はふらりと立ち上がると「はい!」と言って頭を下げた。
この事件は終わったようだ。
(続)