戯曲・演劇~三人のヒロイン~ (終話)
いままつ
次の日、私が部室に行くとテーブルの上に箱菓子が置いてあった。
窓辺にいた円先輩に「これ、何ですか?」と訊いた。
「須藤が謝罪に来て置いていった。中身はゼリーだと」
ふうん、意外にも律儀である。
「押忍! 円先輩! あ、大地字さん、こんにちは」そう意気込んで片山田くんが現れた。今日の彼はボロボロの道着ではなく、ちょっとさわやかな服装で雰囲気も違う。
「あれ? 片山田くん、髪型変えた?」
「お! 気づいてくれた? ツーブロックにしてみたんだ。似合う?」
「うん。似合うーー」
私が言い終わる前に「ちょっと来い、片山田」と、円先輩が彼を連れ去っていった。
私はテーブル上の箱を開け、ゼリーを冷蔵庫に入れた。明日には食べごろに冷え冷えに冷えているだろう。今日のデザートはすでに用意してしまったのでそちらを食べなければならない。
と、そこへ「ミホ! 『でですけクッキー』作ってきたよ」カンナが元気よく現れた。
それから拓哉先輩、飛鳥先輩、由里がやってきてスイーツタイムとなった。
今日は、フルーツポンチである。でですけクッキーもあるのだから文句を言うヤツはいないだろう。
デザートを食べ終わると、円先輩は由里を捕まえ、グラフィックデザインの指導を始めた。拓哉先輩と飛鳥先輩が洗い物。カンナと片山田くんは何だかよく分からない話題の会話をしていた。
私は窓から空を眺めた。時刻は十八時で、薄夕闇に満月が輝いていた。
「円先輩」
「なんだ?」
「月が綺麗ですね」
その瞬間、円先輩の時間が止まったかのように静かになった。
(終話・終)