博物館教育論~二つのピンチ~(3)
いままつ
「グス、グス、グス……」
泣き疲れた私は、今日は芸犯の活動を休み、自宅に帰ることにした。
私は帰り道にスマホを見た。片山田くんから数十件の謝罪LINEが届いていた。恐怖である。
だが、中身は誠実な文言であった。
鍵を開け、玄関に入る。
と、そのときだった。ドン! と、背後から突き飛ばされ、私は転がるように部屋の中へと入った。
な、何!?
「騒ぐんじゃねえ。騒いだらぶっ殺すぞ」男は叫んだ。
ごごご、強盗!!
私は向けられたナイフにおののき尻もちをついた。
声が、出ない……。
犯人の後ろでドアが閉ま……ろうとした、そのときだった。何者かの手が遮った。
その人物は、ボロボロの道着を着ていた。
「だ、誰だ!」
「片山田くん……」
「その人を離せ」
強盗犯はナイフを片山田くんに向ける。
「ダメ! 逃げて、片山田くん!」私は必死に彼に言う。
しかし、片山田くんは『大丈夫』と言う様に手をヒラリと構えた。
彼は強盗犯の手首を叩き、ナイフを落とした。カランと金属質の音が小さく響いた。
「くそ! 覚えてろ!!」
と、まるで少年漫画の悪役が吐き捨てるようなセリフを吐いて去っていった。
「大地字さん、大丈夫ですか?」
「う、うん。怪我はない。片山田くんは?」
「俺は大丈夫です」
「……なんでここが分かったの?」
「その……本当に謝りきれていないから、悪気はないんだけど、見かけた大地字さんの後ろを付けたんだ。そしたら、大地字さんをつけているおっさんがいて……」
ん?
「ちょっと待って、片山田くん。まず、私をつけたと言った?」
片山田はバツが悪そうな表情を作り「ごめん」と一言述べた。
「はあ、もっと正直になりやすいよ。まあ、泣きじゃくってしまう私も、ちょっと動揺しちゃったけれどもね」
それから私たちはケタケタと笑い合った。
(続)