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第3話

 飛び立とうとしたその瞬間、鋭い声が響き渡った。


「待て――」


 巨神オルドの蒼い眼光が彼女を見下ろす。その光は冷たい威圧感を持ちながらも、どこか遠い記憶を探るかのように揺らめいていた。


「お前たちを、絶対に許さん。ここで皆殺しにしてやる」


 その言葉に静けさが降りる。巨神の低く響く声が、彼女の怒りを一蹴するように発せられる。


「……勝負はついてる」


 その瞬間、琥珀色の光が場を染めた。


「いや……まだだ」


 女指揮官が懐から取り出したコアが淡い輝きを放つ。彼女がそれを両手で掲げた瞬間、大地が唸る。

辺りに散らばるミュータントの残骸が、まるで呼び寄せられるかのように一斉に動き出した。断裂した鋼鉄や焼け焦げた肉片が再び融合を始め、異形の生物たちがその不気味な姿を取り戻していく。


「再生だと?」


 巨神の眼光がわずかに変化した。敵をただの脅威と見るのではなく、その背後に潜む技術と意図を捉えようとしているかのようだった。復活したミュータント群が再び咆哮を上げ、戦場を覆う暗雲と共鳴するように前進を始める。


「さあ……ここからが本番だ」


 女指揮官が鋭い笑みを浮かべながら、巨神の動向を見据える。その決意に、巨神は一瞬の沈黙を返し、次の行動を示すように地を踏みしめた。戦場は新たな局面を迎え、再び轟音が空を揺らす。


 ミュータント群が怒りに満ちた咆哮を響かせながら、巨神に突進。その爪は鋼をも切り裂き、巨体を持つ彼らが放つ衝撃波は周囲の瓦礫を巻き上げた。


「化け物が……」


 白熱する蒼い刀身がミュータントたちを射抜き、巨大な剣が一閃する。大地が震えるような音を立て、前方の敵陣を斬り裂いた。それでもなお、ミュータントは怯むことなく立ち向かう。


「どうした! そんなものか!?」

「――ッ!?」


 あるミュータントが巨神の側面から飛びかかる。鋭い爪が巨神の甲冑に触れた瞬間、雷鳴のような衝撃が走る。だが、巨神は即座に体を回転させ、その剣を振り抜くことで相手を地面に叩きつけた。

女指揮官は高台から戦況を見つめ、その目はミュータントたちを操るコアに集中していた。


「もっと……モットォ……!」


 割れた叫びが響く瞬間、新たなミュータントが形成される。巨大な残骸から融合した異形の兵士たちは、まるで進化を遂げたかのような速さと凶暴さ。


「キリがない」


 背中の推進装置を起動させ、高速で空中へと舞い上がる。その高所から一斉攻撃を仕掛け、敵陣を光の嵐で包み込む。その光景はまるで嵐の中の稲妻のように美しくも破壊的だった。

だが、その攻撃を受けた中からひときわ巨大な影が現れる。


「貴様ら、帝国兵に私の家族は殺された……この痛み、分からぬとは言わせん!」


 残骸と無数のミュータントが融合した究極の存在だった。巨神の眼光が鋭さを増し、剣を構え直す。


「ミナゴロシ、ミナゴロシィィィィ」


 巨神とその敵は、互いに全力を尽くし、最後の激突へと突入する。

光輪に包まれる巨神の蒼い眼光が戦場を睨む。だが、それをものともせず、膨大な数のミュータントが四方八方から押し寄せてきた。地平線まで埋め尽くす数の敵に、その巨体を揺らした。


「……クッ!」


 ミュータントたちは凄まじい速度で地を駆け、大地を揺るがす金属と肉の咆哮が響く。その勢いは圧倒的で、彼らが通過するたびに地面には深い傷跡が刻まれていく。

巨神は剣を振るい、敵を次々と切り裂いていくものの、その隙間を埋めるように新たなミュータントが次々と現れる。彼の攻撃は効いているはずだが、敵の数は減るどころかさらに増しているようにすら見えた。


「痛みなら、俺にもあるさ」


 沈黙が一瞬だけ空気を裂く。


「ダカラ、ユルセ、トデモイウツモリカァァァ!」


 他の残骸を取り込んで膨張し、巨大な岩石が宙を覆う。巨神を捕らえ、咆哮と共に襲いかかる。

巨神はその巨体を盾で受け止めようとするも、その力に押されて一歩後退する。蠢き、取り込む。

そして、暗闇が包む。


「コレデ……」


 闇の中、影の巨躯が勝利を確信したかのように唸りを上げる。しかしその声を打ち消すように、鋼の視線が光を取り戻した。


「だからこそ――終わらせるんだ。この戦争を」

「――ナニィッ!?」


 影が驚愕の気配を見せたその瞬間、巨神の両肩からエネルギーの光が迸る。


「エンバース!」


 爆発的な閃光が暗闇を切り裂き、破片とともにミュータントの巨影が弾け飛んだ。その輝きは戦場の隅々まで届き、全てを包み込むような激烈な一撃。


「シブトイ奴ガァァァ」


 勢いが増す攻撃。一挙手一投足に憎しみが籠る。


「何ノタメニ貴様ハ戦ッテイルゥ!」


 眼光が交錯する。蒼と琥珀、その光がぶつかり合うその瞬間、世界が静止したかのようだった。

一閃が放たれ、大地を抉る破壊力が彼女に迫る。


「――ッ!」

「帝国ガソレホド大事カァ!」

「……そんなものどうだっていい」


 地面を蹴り、爆風を利用して高く跳躍する。その動きは人間離れした俊敏さだった。空中で振り返ると、琥珀色のコアが手の中で脈打つように輝いていた。


「守りたいのは帝国じゃない」

「オマエが何を守ろうと、ワタシニハ関係ナイ!」


 彼女の叫びが戦場を震わせる中、巨神は剣を構え直し、静かに口を開く。

その瞬間、彼女は躊躇することなくコアを砲撃用のモジュールに装填し、巨神に向けて放った。エネルギーの束が直撃し、巨神の胸部装甲が焦げつくが、完全に止めるには至らない。

琥珀色の光が爆発的に放たれ、彼女と巨神の間に眩しい閃光を走らせた。



 煙が晴れるとそこには、ボロボロになりながらも立ちつくす女指揮官。彼女に映るのは胸に刺さる刀身だった。


「いつ……ま、も……」


 声はこれまでとは異なる。

彼は何も答えず、飛び去った。


 瓦礫の間を風が通り抜け、一輪の花びらが静かに舞い散る。雷鳴が近づく。

気づくと世界は黄色く染まっていた。ぽつぽつと、音が聞こえてくる。

彼女は傷つきながらも立ち続け、その瞳には遠ざかる巨神の影を見つめ続けていた。



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