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第25話 帰還

 家に戻る頃には辺りは薄らと暗くなり始めていて、ガーデンゲートの前ではそわそわとカフィがランプを持って待っていた。

 帰宅を喜ぶと同時にボロボロのクリームを見てオロオロし、同じく少しボロい虎之助にも泣きそうな顔をした人を慰めて、今は風呂と相成った。


「いっ……」


 体を湯で流すと少し体が痛む。見れば細かな傷はそれなりについていた。ついでに、今日は肉体強化を散々使ったので明日は筋肉痛確定である。

 それでも、心地よい疲れというか、何か一つやりきった気持ちはある。勿論、道半ばなのだが。


「明日は無理だとして、明後日にはテディ二体作らないとな」


 クリームの体と、新たにカフィの体。既に目などの準備は出来ているし、時間のある時にジョイントなどは多めに作ってある。

 温かな湯に体を沈め、息をつく。やっぱり一日の〆は風呂だなと、妙に日本人を感じた虎之助だった。


 上がってくると夕飯が出来ていた。

 豪勢にステーキとマッシュポテト、サラダとコンソメスープにパンだ。


「凄いな!」

『疲れて帰ってくるでしょうから、力の出る物をと思いまして』

「ありがとうな」


 礼を言って、側にクリームを連れてきて魔力玉を渡す。勿論信玄にもだ。だがカフィは動けないクリームを見て目を伏せてしまう。


『すみません、クリーム。私のせいで』


 申し訳ない声音でそう伝えるカフィだが、クリームの方はまったくだ。寝転がったまま大いに笑っている。


「お前のせいじゃないだろ、カフィ。一つに実力不足さ。俺も主を見習って鍛錬をしなければな」


 なんて笑い飛ばすクリームはいい奴だな。そう、素直に思った。


 ステーキに赤ワインのソースなんて本格的ないい料理を食べて腹も満たされた。少し眠いがその前に一つ紹介しなければならない奴がいる。

 マジックバッグからスルトを取り出すと、途端にカフィは警戒した。


「魔剣!」

『聖剣ですが!』


 直ぐさま反論するあたりスルトらしい。戸惑いの様子を見せるカフィに、虎之助は彼を手に入れた経緯を説明した。


「……と、いうことだ」

『なるほど……と、申して良いのか微妙ですが、事情は把握できました。ご主人様、この剣は人目に触れさせると大変厄介な事となりましょう。何処かに封じてくる事をお勧めいたします』

『おいおい、そりゃないぜ! やっと自由だってのに』

『伝説の聖剣など、クラフターのご主人様には無用の長物。あるだけで火種となりかねない物は呪物と変わりないのです』


 伝説の聖剣に向かって結構な言いようである。

 だがまぁ、言いたい事はわかる。過ぎた物を持つと悪い事が起こる。この場合、知られれば欲しがる者が接触してくるだろう。

 善人であればまぁ、話くらいは聞く。とはいえ剣が完全に自我を持っているのでこちらの話を聞いて従ってくれるかはまた別問題になるが。

 最悪は悪い奴等が聞きつけた場合だ。襲撃、暗殺、それこそ呪いとかありえる。奪い取る方が楽だと思う奴等だろう。

 まぁ、それもこの森の厄介な魔物を掻い潜り辿り着けたらの話だが。


『これでご主人様を持ち主と定めているならまだしも』

『いや、それ余計に巻き込まれるって。それに微妙に相性合わないんだもんよ』

「そうだな。俺もスルトを使い続けるのは荷が重い。多分だけどよ、俺はそれほど火属性強くないし、特化じゃないんだろう」


 そもそも技術士であって剣士じゃないとも言う。


『地下の宝物庫に封印の鎖を付けて置いておきましょう』

『えー! さーびーしーいー! 俺話すの大好きなんだけど!』

『役立たずで厄介なだけなら地下です』


 そうツンと言い放ったカフィ、今日は容赦が無い。

 だがここで、不意にスルトが「ふふ~ん」と鼻で笑った。


『これが、お役立ち出来るかもなのよ』

『なんです?』

『トラノスケは異世界人で、しかも歴史や治世に疎い。更に魔神の事とか、封印とか、俺はそういうこと割と知ってるわけ。当事者だったしな。そういうところでアドバイスは出来るんだぜ?』


 これを、虎之助は認めざるをえなかった。

 気になっていたのだ、前の転生者の事が。彼が何をしたのか。そして今回ドロップした『封印の地へ』というアイテム。あれもだ。


 だがカフィは訝しい顔をしてスルトを睨み付けている。


『転生者はここ近年、数は少ないですが来ています。まぁ、直ぐに死んだとか、何処かの国で問題を起こしたとか、逆に引きこもって出てこないとか、色々言われておりますが』

「え!」


 カフィの言葉に虎之助が驚く。なんせ初耳だ。

 そんな虎之助にカフィも驚き、しばしの沈黙が流れた。


『もしかして、ご存じなかったのですか?』

「ない……」


 ガックリと肩を落としてしまう。あの神、大事な事をちゃんと伝えてくれよ。ほんとマジで!

 だが、これを言っても後の祭りだ。疲れた溜息をつきつつも落ち着けと言い聞かせ、虎之助はカフィを見た。


「俺以外の転生者は何処にいるんだ?」

『分かりません。公式にはどこにも』

「どこにも?」

『亡くなられていたり、行方不明のまま十年以上姿が見えなかったりです。どれも強い力を持っていたようですが、使い切れず自滅したりしているようです』

「それもどうなんだよ」


 勇者とか救世主を目指すからこうなる。こんな夢のような世界にきてまで血みどろの争いなんぞしなくてもいいじゃないか。

 そう、任侠出身の虎之助は思うのだ。


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