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第4話 左遷

ゼペレ砦防衛から数日後――――王都エル・ファドルの王城にベルナは召喚されていた。


玉座の前に彼女は膝をつき、深々と頭を下げる。


そんな彼女にフェルド王はこめかみをつまんで、頭痛に顔を歪めていた。


エーテル王国軍の総司令官オルディアトが一歩前に出ると怒りのあまりにこめかみに血管を浮かび上がらせ、指差した。


「貴様、なんということをしてくれのだ! あれだけ援軍が来るまで、守備に徹するようにと伝えたはずなのにその守りを解いて、あまつさえ敵軍に突撃しただと!? 貴様、自分のしたことがわかっているのか!」


オルディアトは怒りに顔を真っ赤にし、唾を飛ばして怒鳴り散らした。貴族の男も便乗して、ベルナを罵倒する。


「ゼレペ城塞の守備兵の半数が戦死し、フェレン聖騎士団にも被害が及んだと聞く!  貴様の無謀な突撃のせいで、どれだけの兵が無駄死にしたのかわかっているのか!?」


ベルナは顔を上げずにじっと押し黙っていた。


オルディアトがさらに声を荒らげる。


「聞いているのか! ベルナ!」

「うるさい老害め……」


ベルナはぼそりとつぶやいた。


「貴様、今、なんと言った?」

「いえ、何も」

「その態度、なんだ? その態度は」

「では、一つお聞きしたいことがあります」


ベルナは顔を上げ、オルディアトを睨みつけた。


そして、静かに口を開く。


その口調は静かでありながらどこか怒りを感じさせるものだった。


「援軍はいつ来る予定だったのでしょうか?」

「そ、それは……」


オルディアトは言葉を詰まらせた。


そして、近くにいたロニア男爵へ助けを求めるように見る。


「救援要請を受けてからただちに兵を集めておりましたが準備にてこずっておりました。それでも、5日後には到着する予定で―――」

「5日後? 5日後では遅すぎます。敵は目の前にまで迫っていたのです。私が攻勢に出なかったらゼレペ城塞は陥落していたでしょう」


ベルナは淡々と事実を述べた。


「それとこれとは別だ。私は兵を無駄死にさせた責任を問うているのだぞベルナ!」


オルディアトが怒鳴る。


しかし、ベルナは平然としていた。


「無駄死にさせた? どこが無駄死にだったのでしょうか?」

「どこが……だと?」

「そうです。あの状況で、籠城戦など愚の骨頂。ただ死ぬのを待つだけでしょう。ならば、打って出て敵を討ち取る。これが最善の策です」

「め、命令は命令だ。軍の規律は守らなければならない」

「規律? これは戦争です。司令官の命令が絶対などというものは存在しません。戦場は常に動いているのです。それに兵士など、いくらでも替えの効く消耗品にすぎません」


ベルナの言葉に謁見の間にいた誰もが唖然となった。


「き、貴様、兵をなんだと思っているのだ」


その態度にオルディアトは怒りに拳を震わせていた。


すると、そばで控えていたエーテル王国支部のフェレン聖騎士団長ガルムが一歩前に出た。


「確かに今回のベルナの独断での行動は確かに指揮官としては軽率だったといえる。だが彼女のおかげでトロール・ロードを倒せたのも事実です。10万の亜人を討ち取ることも出来たことは我々にとっては大きな勝利です。彼女がいなければ、今頃は王都にも亜人どもに攻め込まれ、陥落していたかもしれません」

「そのようなことは憶測に過ぎん。王都防衛には親衛隊を含め、精鋭の5個軍団が控えていたのだ。陥落するはずがない」

「それこそ、憶測だろうに」


ベルナは吐きすれるようにぼそつく。


「なんだと? 貴様」

「どうせ、王都が陥落の危機だと知り、国外にでも逃げる準備をしていたのだろう」

「な、何を根拠に……」

「図星か。まあ、別に構わないさ。私のおかげで10万の亜人の軍勢を壊滅させることができたのだ。感謝してほしいくらいだな」

「貴様!」


オルディアトはベルナにずかずかと近づき彼女の胸ぐらをつかむと――パンッ! 平手打ちをした。


王の間に響く叩いた音。


ベルナは頬を赤くしたまま、痛がることもなく、ギロリとオルディアトを睨み付けた。


まるで、人を殺すような目にオルディアトはたじろいで、つかんだ手を放し後ずさりした。


「なんだ、その目は。まるで、殺人鬼のような目ではないか」

「殺人鬼……だと」

「ああ、そうだ。人を殺めることに快楽を求める狂人のような目だ」


オルディアトは吐き捨てるように言った。


「女神に選ばれしこの私を殺人鬼呼ばわりか」


そういうと腰に吊っている剣柄に手を伸ばした。


「き、貴様、王の間で剣を抜くきか? !」

「ベルナよせ!」


ガルムが止めようとするも、彼女は本気だった。


ジリっと距離を詰めると剣を抜こうとした。


その光景を先ほどまで黙って見ていた親衛隊の兵士らが、慌てて剣を抜き駆けつけようとした。


「待て!」

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