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第20話 飛刀で救出、そして洞窟を巡る争い


「奈緒、今のカッコよかったよ!」小野寺美咲は満面の笑みを浮かべていた。もともと早川奈緒には好印象を持っていたが、さっき早川愛花のグループに堂々と立ち向かったのを見て、ますます気に入った様子だ。敵の敵は味方という言葉通り、美咲にとって愛花は苦手な存在だったから、この瞬間、奈緒がとても頼もしく見えた。


「何か、違和感感じない?」奈緒は急に足を止め、不機嫌そうに振り返って美咲を見下ろした。


見ると、美咲は荷物を下ろし、息を切らしながら顔を赤くして汗をぬぐい、自分のスーツケースにドサッと腰を下ろしていた。


「え?全然?」美咲はきょとんとした顔で答える。


その途端、内木克哉と小関夏葵の表情が一変し、妙な目つきで美咲をじっと見つめた。美咲はその視線に身震いしながら、「な、何?私、顔に何か付いてる?」と慌てて顔をぬぐい、小さな鏡を取り出して確かめる。


だが、次の瞬間、体がピクリと固まった!足元からじわじわと痺れるような感覚が這い上がってくる!


信じられない思いで奈緒を見ると、奈緒の視線が自分の足元に向けられているのに気づいた。


美咲が慌てて下を向くと――


一匹の小さな蛇が、彼女の足首に巻き付いて上へ這い上がっていた!美咲が下を向いたとたん、蛇も頭をもたげ、冷たい舌先が今にも美咲の肌に触れそうになった。


「きゃあっ!ヘビ!ヘビがいる!」美咲は悲鳴を上げた。


その叫び声に、別のグループも駆け寄ってきた。カメラマンはすかさず美咲にレンズを向ける――スーツケースの上に座り込み、体が固まったまま冷や汗を流す美咲の姿を捉えた。


蛇は美咲の恐怖を感じ取ったのか、さらに興奮し、頭を勢いよく持ち上げて美咲の顔めがけて飛びかかろうとした!


「危ない!」内木克哉が叫び、咄嗟に木の枝を掴んで阻もうとする。小関夏葵も思わず美咲をかばおうと飛び出した。全員が息を呑み、動きを止める。


美咲は絶望的な目で蛇を見つめ、恐怖で足が鉛のように動かなかった。蛇の舌が顔に近づいてくるのを、ただ見ているしかなかった。


その時――


銀色の閃光が空を切った!


「シュッ――!」


短刀が美咲の頬をかすめて飛び抜けた!


「パシッ!」という鈍い音とともに、蛇の尾が美咲の顔を叩き、熱い痛みが走る。


次の瞬間、蛇は短刀で木の幹に見事に打ち付けられ、血を飛び散らせながらもがいていた。


「大丈夫?」奈緒が素早く駆け寄る。


美咲は顔を押さえたまま、しばらく声も出せずにいたが、やっと絞り出すように「奈緒……」と震え声で言った。さっきまで足に感じていた冷たい感触を思い出し、まだ足が震えていた。


「毒はないよ。」奈緒はそう言うと、手際よく短刀を引き抜き、蛇を数回に切り分けて蹴り飛ばした。


少し離れたところで、早川愛花の顔から喜色が消えた。本当は美咲に何かあればいいのにと内心願っていた。もともと自分が演じるはずだったヒロイン役を美咲が奪ったのだから。美咲さえいなければ、自分の出番が回ってくるのに。せっかくのチャンスが、奈緒の一振りで台無しにされたことに、愛花は爪が手のひらに食い込むほど悔しがった。


「ありがとう……」美咲は恐怖に耐えながら奈緒の腕をぎゅっと掴んだ。


奈緒は微笑みながら、美咲の額の汗をぬぐってやる。「蛇が苦手?今度、本当の蛇ってやつを見せてあげるよ。」


「え?」美咲はきょとんとして、戸惑いと不安の入り混じった表情を奈緒に向けた。


奈緒は指先で美咲の鼻を軽くつつき、肩をポンと叩いた。「ぼーっとしてないで、早く行こう。」


克哉と夏葵もやっと固まった手を下ろした。あまりにも一瞬の出来事だった。克哉はすぐに美咲のスーツケースを持ち上げ、「行こう」と声をかける。夏葵も美咲を支えながら、さっさと歩き出した。


四人は足早に先を急ぐ。奈緒が先頭に立ち、克哉が荷物を持ち、夏葵が美咲を支えて森の奥へと進んでいった。


「急ごう、俺たちも!」冷泉慎也が慌てて促す。未知のジャングルに入ってからというもの、自信はすっかり消え失せていた。番組スタッフは“ハプニング”で視聴率を稼ごうとしているのが見え見えで、とても頼りにならない。奈緒が山育ちだというプロフィールを思い出し、彼女についていくしかないと冷静に判断した。


「きゃっ!」愛花が小さく声を上げた。


「どうした?」慎也がすぐに振り返る。


「何でもない、石につまずいただけ。」愛花は唇をかみしめて、気丈に振る舞った。「早く追いかけよう、もうすぐ暗くなるし。」さっきの蛇の一件で、彼女もすっかり怯えていた。


智洋も同じく、恐怖で気を緩めることはできなかった。竹下周平は黙って周囲を警戒しながらついていく。スタッフも緊張した面持ちで、二組のカメラがしっかりと追いかけていた。


【怖すぎる!番組スタッフ何してるの?蛇が出ても放置?美咲、顔真っ青だよ!】

【ヤラセでしょ?演技が大げさすぎ】

【いやいや、生放送でヤラセは無理でしょ?リプレイ見たけど、あれ本物の蛇だよ!】

【奈緒、マジで凄い!飛刀で救出だし、森のこともよく知ってる!】

【さっきの愛花の顔……うーん、なんか複雑だったね】

【あざといにもほどがある!また弱いフリしてる】


配信の視聴者たちは、先ほどの出来事にコメント欄が大荒れ。恐怖と興奮が入り混じっている。


奈緒はしばらく歩いたところで立ち止まり、周囲を見渡した。やがて、前方の岩壁の盛り上がりに視線を定める。


「向こうに洞窟があるかもしれない。」指をさし、「夜に風が強くなったら、洞窟に避難しないと。テントは危険すぎる。」


その言葉を聞くや否や、愛花が奈緒の指差す方を見るなり、目を輝かせた!何も言わず、奈緒たちより先に駆け出し、「見て!あっちに洞窟があるみたい!」と智洋と慎也に叫んだ。

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