【何の深い恨みがあるっていうの?どうしてそこまで奈緒ちゃんを狙うの?嫉妬…?】
視聴者のコメント欄が紛糾する中、将史は息を切らして駆けつけた。
遠くに地面に倒れ、口元から血を滲ませる愛花の姿を見た瞬間、彼は胸を締め付けられる思いで駆け寄った。ちょうどその時、周平の慌てた声が耳に入る。
「愛花さんがイノシシに突き飛ばされたんです。重傷じゃないでしょうか?」
奈緒がさっき必死でイノシシと戦っていた様を思い浮かべ、将史の怒りは頂点に達した。
愛花を周平に託すと、人垣をかき分けて奈緒の前に突進し、鼻先を指さして罵った。
「テメェわざとだろ!?わざとイノシシをおびき寄せて戦いを仕掛け、愛花を重傷させようってのか?彼女がお前に何をしたっていうんだ!そんな小手先の手段で人気を得ようなんて甘いぞ! 忘れるな、お前の契約はまだ早川エンタテインメントにあるんだ。まだうちの社員なんだぞ!」
周囲は突然の非難に呆然とした。
克哉が即座に一歩前に出て奈緒を遮り、冷ややかな目で将史を見据えた。
「将史さん、発言する前に状況を把握したほうがいい。イノシシを引き寄せたのは愛花さん自身です。彼女が奈緒さんを傷つけようとしたんだ。
奈緒さんは人を救うために命を落としかけたのに、それを逆に責めるとは、早川家のやり方はいつもそんなに理不尽なのか?ここには大勢の目撃者がいる。カメラも回っている。君の嫌味は通さん」
克哉の声には嘲笑がにじんでいた。
将史は言い返され、顔が紅潮した。「お前!同じグループだからって、結託していい気になるなよ!」
面と向かって恥をかかされるとは思っていなかった。「はぁ?」美咲が怒りに任せて飛び出し、愛花の腕を掴むと将史の前に引きずり出した。
「あんた、天地に誓って言えるか!?イノシシはあんたがわざと引き寄せたんじゃないって!A班にはカメラが付いている。映像を確認すればすぐわかる!なんなら今映像を見てみようよ。イノシシがどこから突撃してきたのか。誰がわざと引き寄せたのかすぐわかる!」
美咲は愛花を将史に押しやった。
「あんたもただのゴマすり野郎だ。いきなり噛みついてくるなんて。お互い干渉しないって約束なのに、根拠もなく人を誹謗するわけ?契約で威嚇する?奈緒ちゃんがあんたの会社と契約してるからって、イノシシに殺されてもいいの?あの子いくら貰ってる?トップ契約? 撮影現場であの子があんたにコーヒー買ってるのを見たぞ。パワハラにも程があるだろ」
将史は返す言葉を失った。克哉の背景が単純でないことは知っている。でも美咲も、正体は誰も知らないが業界で誰も逆らえない存在である。そして今まさに生放送中で、自分の発言が炎上するかもしれないと気付いた。
「乗船時の蹴りが甘かったのかな?」血塗れの短刀を握りしめた奈緒が一歩前に出た。その目は冷たく冴えていた。
「トイレで押さえつけて契約で脅したな。8ヶ月の試用契約で補償すると言いながら、使い捨てのように働かせた。契約満了まで残り半月だ。契約で道徳的な縛りをかけるのはやめろ。ここで好き勝手は許さん」
将史は彼女の手にした短刀を見て、思わず半歩後ずさった。彼女がイノシシの首を刺した凶暴な光景が頭をよぎり、首筋に冷たいものを感じた。
「あんたと愛花、そして慎也。番組が始まってからずっと私を狙ってるよな?お前たちの悪事を暴けないとでも思ってるのか?」奈緒の声には警告が込められていた。
将史の目に一瞬殺意が走ったが、必死に押さえ込んだ。彼は愛花の手首を掴んで引っ張ると、「行くぞ!」と叫んだ。
「……ごめんなさい。私が悪かったんです。謝ります…」愛花は泣きじゃくりながら弱々しく言った。この様子が却って将史の苛立ちを増幅させた。
島で奈緒を掌握できると思っていたのに、彼女はとっくに支配下から外れていた。
彼は忘れていた。奈緒は昨日、彼らに強制的に結婚させられた時点で、もう早川家とは無関係だったのだ。
【奈緒ちゃん、やっぱ将史の弱み握ってんのか!?はよ暴露してくれ!】
【このグルのコンビ、見てるだけで吐き気するわ】
【克哉と美咲かっこよ!これぞ真の仲間!】
一方、東京・早川家では。
雅子が顔にパックをしたまま生放送を見ていた。イノシシが現れた瞬間、持っていたフルーツプレートを落としそうになる。「智洋!早く来て!イノシシよ!製作陣何してるの!」
コーヒーカップを手にした智洋が駆け寄り、外出先から戻ったばかりの拓海も眉をひそめてソファーへ近づいた。最近早川エンタテインメントの事業は行き詰まり続けており、彼はその原因も分からず手探り状態だった。
「なぜイノシシが!?ロケハン何をしていたんだ!」智洋の手が震え、コーヒーを床にこぼした。
画面には、愛花と将史がこっそり話し合い、イノシシを奈緒の方へ誘導しようとする様子が映し出されていた。
雅子は口を開けて何か言おうとしたが、結局飲み込んだ。