【は?あの二人マジで頭イかれてんのか? ヤクザかよ 理屈ゼロ】
【自分らが変なもん食ったのに、なんで奈緒ちゃんのせいにすんの? 意味不明】
【気づいたら奈緒めっちゃ可哀想…完全に狂犬に噛まれてる状態じゃん】
【奈緒ちゃんお願いだからアカウント作って!メンタル安定お姉さん推します!】
【草 俺も推すわw こんな落ち着いてて勇敢な女性、今どきそうそういねー】
視聴者の怒りは頂点に達していた。生放送を見ながら行動する者も多く、早川エンターテインメント本社前では腐った卵を手にした人々が社員を見つけるなり投げつけていた。
社内では社員たちが声も出せず、誰も外に出ようとしない。
「ふざけんなブラックよぉ!タレントは倫理観欠如してるくせに、新人をここまで追い詰めるなんて!社長を出せ!」
「出てこいよ!なんで新人に契約で責任押し付けるんだ?これが人扱いか!」
社外では抗議する群衆がメガホンで叫び続ける。早川エンターテインメントの社員は恐怖で震え上がり、社の扉を固く閉ざしたまま拓海に緊急連絡を入れた。
拓海は携帯を叩き壊しそうになるほど激怒していた。たかが一つの番組が原因で、社が包囲される事態になるとは!
(奈緒…生放送で騒ぎ立てれば我々が潰れると思ったか?)彼は奈緒が世論を利用し、早川家を屈服させようとしていると確信していた。
幼い頃から早川家で育ったわけではない彼女にとって、家族の絆など薄いものだ。早川家が彼女を会社に入れ端役をやらせていることすら、恩恵と感じているはずだ。
「社長、どうなさいますか?」アシスタントの声が震えている。
「通報だ!警察を呼んで、騒いでいる連中を全員逮捕させろ!」拓海の声は冷たい。何人か捕まえてみせれば、誰も騒げなくなる。早川家を舐めるなと見せつけてやる。会社のイメージが大きく損なわれているのだ。
病床で昏睡する母親を見つめながら、拓海の心は完全に折れていた。
――
無人島の密林の奥深く。
奈緒が一人で進む様子を、隠しカメラが捉えている。彼女は克哉から渡された登山用ロープを固く握りしめていた。
次の瞬間、ロープを頭上高くの枝に投げかけ、その反動で素早く幹へと登る。
背後で不気味な物音。奈緒は息を潜め、宙に浮いた体勢で長い脚を幹に踏ん張り、鋭い視線を前方へ向けた。
腕ほどの太さの三角頭の毒蛇が、葉の茂みから突然飛び出し、矢のように彼女の首筋へ襲いかかる!
奈緒は瞬時に反応し、蛇の牙が皮膚に触れる寸前で逆手に蛇の首根っこを掴み、地面へ叩きつけた!
「ドン!」岩の上に蛇の胴体が叩きつけられる。
毒蛇は苦しそうにくねり、草むらへ逃げ込もうとする。奈緒は飛び降りて蛇の尾を踏みつけた!逆上した蛇の頭が猛スピードで反転し、牙を立てて襲いかかる!
鋭い光が走る――短刀が突き刺さる!
刃は蛇の口元から喉元へ深々と食い込み、頭を割かんばかりの一撃!信じられないというように蛇の舌が狂ったように震えた。
次の瞬間、蛇の首が転がり落ちた。飛び散る血しぶきを浴びながら、奈緒は素早く足を上げて胴体を蹴り飛ばす。
数歩後退し、ズボンの裾に蛇の血が点々とついた。ほっとしたのも束の間、もう一匹の蛇が音もなく彼女の足首へ絡みついている!
「…っ」と息を詰めると、蛇の胴体が猛然と締め上げ、彼女を振り飛ばそうとする。
奈緒は素早く反応し、近くの岩に足を踏ん張って体勢を保つと、電光石火の速さで蛇の頭を捕らえた!逆襲のために頭を持ち上げた蛇を、彼女は逆手で二発の強烈なビンタを叩き込んだ!
「パン!パン!」蛇の頭は衝撃で朦朧とする。
その隙を逃さず、再び短刀の刃が光る!手を振り下ろせば、蛇の胴体は真っ二つに切断されて地面へ落下した。
彼女は手慣れた様子で二匹の蛇の頭を切り落とし、穴を掘って深く埋めた。続いて蛇の胆を取り出し、胴体と毒針を丁寧に処理する。
周囲に潜む子蛇たちは恐怖の威圧を感じ取り、慌てて逃げ出し、二度と近づこうとはしなかった。
全てを終えると、奈緒は短刀の血を拭い、何事もなかったかのように歩き出した。その一連の行動は隠しカメラに克明に記録されていた。
【は?俺の見間違い? 今、蛇2匹仕留めたよな!?】
【この人マジで怖いもん無しかよw サッと刀振り下ろして一撃必殺 しかも両腕太さの蛇2本ってヤバすぎ】
【奈緒ちゃん、蛇の頭切り落としてすぐ埋めたの天才すぎ 毒蛇って死んでも噛むって言うし、神経残ってるから危ないんだよな】
【そうそう!地面に埋めとけば自然に腐ってもう人に危害加えないし 残しとくと毒牙触れて中毒する可能性ある】
【前にイノシシ仕留めたときは偶然かと思ったけど…完全にプロの手口だったな やっぱこの姉さん本物だわ】
【奈緒ちゃん、殺し屋?w イケメンすぎて惚れるんだが 付き合いてぇ】
生放送は熱狂の渦に包まれた。蛇退治の場面は即座にショート動画に編集され、各プラットフォームを席巻、瞬く間に百万人が流入!視聴者数は200万人から500万人へ急騰!
誰もが固唾を飲み、奈緒の一挙手一投足を見守る。彼女は林を抜けると、断崖の縁へとたどり着いた。
視聴者が理解するより早く、彼女は身を投げ出した――
【は?飛び降りた!?】
【おい自殺じゃねーよな? 崖だぞ!?】
【狂ってる…完全に狂ってる てか俺が先に発狂するわ 奈緒マジで伝説級のヤベー奴】
視聴者たちは腰を抜かさんばかりに驚いた。画面から奈緒の姿が消え、数秒経ってようやく、彼女が崖から飛び降りたと確信する。
カメラは必死に追跡する。奈緒はロープを崖縁の木に巻き付け、滝つぼへと滑り降りていた。体は水流の衝撃に耐えながら。
片手で滑りやすい岩壁を支え、鋭い目つきで周囲を見渡す。すぐ近くの岩の裂け目に、一輪の奇妙な植物が咲いている。
奈緒の胸が高鳴った。採取しようと手を伸ばすと、巨大な毒サソリが岩陰から飛び出し、大きな鋏を振りかざして襲いかかってきた!
驚いた彼女は素早く後退する。
毒サソリの一撃が空を切り、凶暴に身を翻して再襲撃!その刹那、奈緒は突然空中へ跳び上がり、正確無比な軌道で足を振り下ろした!
【踏み潰した――!?】
【あれ毒サソリだぞ! でも毒のある場所には薬草もあるって言うし、さっき奈緒ちゃんが見つけてた草…あれ何の花だ? どっかで見たことある 図鑑引っ張り出してくるわ】