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【8-2】 エピローグ(裏)



 ここからはわたしのエピローグ。



 桜川さくらがわひたちは入学してから今まで、廻戸はさまど先生に頼まれて校内で起こる問題を解消する日々を送ってきた。


 入学。


 そういえば、わたしが海南うみなみの入学を志したのも、このくらいの季節だったっけ。

 今でも鮮明に覚えている。脳に焼き付いたように記憶にある。

 二年前の春のこと。桜が散るころ、あの川沿いの道で出会った『彼』のことを、その言葉を指針にして、今のわたしがある。


 彼が落とした一本の万年筆を拾っていなければ、わたしは今もあの頃のままだったろう。

 当時、成績も素行も不良学生のわたしを目に映した彼が苛立っていたのは、わたしたちに対してかと思ってたけど。それもあるんだろうけど。思えばあの時、彼はなにかに囚われていた風だった。


 そんな彼が投げやりに放った一言に、当時のわたしは激情しながらも、だけどそれからわたしの在り方は大きく変わったのだ――。




 月曜日の放課後。


 わたしは一連の事後報告をしに廻戸先生のもとを訪ねていた。

「ご苦労。見事にあいつらの尻拭いをしてくれたな」

 ほんと勘弁してほしい。


 天川あまかわあまね――先生が一目置く、ただの男子生徒。

 ただの男子生徒のくせに、やけに勘がはたらくし、物事を裏の裏まで読んでるし、このわたしに食って掛かってくる、いけ好かないやつ。


 なんでわたしがあいつのために――いや。周はいい。

 花室はなむろ冬歌ふゆか。なんであいつが周に協力してんのよ。

 いくらわたしのことが嫌いだからって、二対一はずるいでしょ。物理的に優位なのは当然なんだから。



 …………それに。


「天川の隣が羨ましいってか?」

 そうよ! なんでぽっと出の女に後れを取るしかないの……って、え?


「声、漏れてんぞ」

 廻戸先生はニヤリと笑っている。


「――! 先生! わたしはそんなことっ」

「おいおい。いつからお前らのことを見てきてると思ってんだ。その制服に袖を通す前から、俺はお前らの教師やってきたつもりだぜ」


 そうだった。大前提、この人にその手の話で主導権を握ることはかなわない。

 わたしが海南にいるのは、廻戸先生の進言あってこそだから。


「しかし、良い経験ができたじゃないか。一時でも天川の恋人を名乗れたのだから、まさしく不幸中の幸いというやつか?」

 だからといっても。

 恩義は合っても、それとこれとは話が別! なにいっちょ前に教師ヅラしてんのよ! このおせっかいゴシップオヤジ!


「にしても残念だったな。ヒロインとしてのプライドが優先して、結果破局か。おまえがもうちょっと素直だったらなあ」

「わたしは素直です! 嘘を吐いたことだってないし!」

「言葉ではな。だがどうだ。今のお前はヒロインとして自分自身を偽っている。なにより、天川に過去のお前を隠しているだろう」


 先生のこういうところがほんとに頭にくる。分かってるくせにいじわるして、でもなにも言い返せなくて悔しさだけが募っていく。



「あの時のお前のままで顔を合わしゃ、あいつの反応も変わってきただろうよ。わざわざ髪色を変え性格を変え、桜川ひたちという人間を作り変える必要はなかったんじゃないか」


 だって、しょうがないじゃん!

 わたしの正体を知ったら、なおさらあたりが強くなるに決まってる! あの時の印象なんて、最悪だったんだから!



 それに。素直になんてなれないよ。


 周の話になると調子狂うし、あいつの前だとまともに目を合わせられてるかすら不安になる。緊張で会話どころじゃないんだから。

 気持ちを紛らわそうと強気でいると、そのまま強気な態度になっちゃうし……。人と話すのって、こんなに大変だったっけ。



「勘違いすんな。『ヒロイン』桜川ひたちのことは知らんが、天川は今でも本当の桜川の影を追っている。お前が足踏みしている間に、あいつはいずれお前に辿り着くだろうさ」

 それって。


「お前はあの時。確かに一人の少年を変えた。道を示した――少年がお前に、道を示したように」


 その言葉が聞けただけでいい。

 今はそれだけでいい。周が覚えている。

 あの時あいつがわたしにかけた言葉を。



『誰もが認めるヒロインになってやるんだから!』



 ならそれまで、わたしはヒロインとして在り続ける。あの約束を果たして、全部が終わった後、あいつの前に現れてやるんだ。


 あの時周が示した道を、最後まで歩いてやるんだ。

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