8話 元アサシン、焼きイモ屋さんになる。(2)
移動中に、この国での仕事の決まりを話された。
移動販売も決まりごとがあり、宣伝放送の音量が決まっていたり、何分間、宣伝放送をしたら、何分間、宣伝放送を止めないと駄目とか、販売場所の許可を取ったり、販売が出来る時間が決まっていたりとか……色々と大変なようだ。
それに、この国は元の国と違い、アチコチにしロと間違えてしまうような建物が多く、特徴的なのが四角い建物ばかりだ。
ゲントに聞いたが、大きな四角い建物の中に、多くの人達が暮らしているらしい。
「バート、1ヶ所目の仕事だぞ!」
俺に告げると何かのスイッチを押した。
すると、車からみそらの声が鳴り出した。
「いしや~ぁきイモ、おイモ、おイモ、おイモだよ~ぉ」
「さーあ、いらっしゃい。甘くて美味しい、焼きイモは、いかがですか~ぁ」
「転ばないように、早くこないと、いっちゃうよ~ぉ」
みそらの声にビックリしたが、何故だろう、その声は、癒しの呪文を詠唱されているようで、心地が良かった。
ゲントが車から出て、四角い建物が並んでいるところに入るために、鍵を開けた。
車を進ませて、中に入って行き、車を止めた。
★★★★
「さーあ、仕事だぞ。バート」
ゲントが車を降りたので、俺も急いで車から出たのだが、周りを見ると四方を高い建物に囲まれていた。
建物のアチコチから、サっキとは違う視線を感じていて、俺の心は〈ザワザワ〉としていた。
しばらくすると、車に人が集まり始めた。
「寒いね~ぇ玄さん。千円分ね~」
「ハイよぉー。寒い中、有り難うねー」
「玄さん、ウチも千円分ねーぇ」
「何時も有り難うねーぇ」
「げんたん、こんちちわーぁ。あたちにも、オイモちょーらいな~ぁ」
「おーぉ、みよちゃん。ご挨拶が出来て、えらいね~ぇ」
小さな子供が食べやすいようにイモを切り、みよちゃんに手渡している。
「あがりと~ぅ。げんたん」
「玄さん、娘がスイマセン。うちも、せンエん分お願いしますね」
「大丈夫だよぉ~。何時も有り難うね! みよちゃん、みよちゃんママー」
ゲントの人気と、ゲントが焼いた焼きイモの人気が良く分かった。
すると、あっと言う間にゲントの車に列が出来てしまっていた。
感じていた視線の正体は、お客様達の視線だったことが分かり、ザワついていた俺の心も落ち着いた。
(さて、俺もゲントの手伝いをしないとな)
車に近付こうとした時だ。
「おにいたん、だぁ~れ?」
ニコニコ笑顔で焼きイモを食べている、みよちゃんから声をかけられたようだ。
ゲントに視線を送ると、お客様の対応中で、それどころじゃないようだ。
緊張をしながら俺も、ゲントを見習い、対応することにした。
「おにいたんもね~ぇ、げんたんの、おイモやさんなんだよ……」
俺の返答に、車の周りに居たお客様達の視線がいっせいに俺に集まった。
「あら、男性だったのねぇー。きれいなお嬢さんだなーと思っていたのよぉー」
「アハハハハぁー」
「玄さんのお弟子さんになったの?」
「昨日から弟子入りをさせていただきました」
「お兄さんは外国の人なのかしら? きれいな銀髪ねぇ~」
「そ、そうなんです~ぅ」
(マズイ、またしつもんぜめが始まってしまったぁー。今回の人数は今の俺には、まだ対応がしきれないぞ……)
オロオロしている、俺を見たからであろう、お客様の対応をしながら、ゲントが俺に視線を合わせて頷いた。
「イケ面でしょ~! コイツはバートです。皆様ヨロシクお願いしますね」
ゲントが頭を下げたので、俺も頭を下げながら、お客様の確認をする。
(男性は居ないようだな)
「ヨロシクお願いします。お姉さま方々」
元気に挨拶をしたことで、俺の何かが吹っ切れて、ゲントを見習いながら対応が出来るように、気合いを入れてがんばった。
(会計はまだ、今の俺には出来ないけどね……)
1ヶ所目の販売分は、1時間ほどで売り切れてしまった。
車の周りにゴミがないのを2人で確認をした。
「バート、皆様に礼をしてから次に向かうぞ」
俺に告げてからゲントと俺は、4方向の建物に1礼を4回してから、次の場所へと向かった。
9話に続きます。