11話 元アサシン、みそらとイベントへ行く。〈1〉
風呂から戻った俺は、この国に来てからも習慣となり体に染み付いている、死具の手入れとチェックをしている。
だが、手入れをしながらも、この数日、思っていたことがある。
(なんで俺は、死具の手入れをしているのだろう? アサシンの俺は消されたのに、もう居ないのに)
ゲントとみそらと居る時は考えないのだが、1人になると考えてしまう。
特に今夜は、そのことを考えてしまう。
この国に来て、初めてゲントが任務にムカウカラダ。
本当に俺は、このままでいいのだろうか? ふう~。
手入れも終わったし、もう寝るか? 明日はみそらに楽しんでもらいたいからな。
手入れが終わった死具をしまい、眠りについた。
★★★★
翌朝、2人の起床前に起きて、焼きイモ用の石を洗っていた。
「バート、早いな。おはようさん、ご苦労様だ」
いかにも旅行に行くような偽装の荷物を持ち、ゲントがリビングに現れた。
「ああ、おはようゲント。今日は色々と用事があるので早くに済ませておきたかったんだ! それに、ゲントの見送りをしたかったからな」
何年ぶりだろう? 俺にとって久々の任務前の見送りだった。
俺が幼かった頃、師匠を見送った時のようにゲントのことを見ていた。
たくさんの靴の中から、出掛けるようなお洒落な靴を履き、ヤーニ〈タバコ〉をゆっくり吸い込むと、ゆっくりと吐き出して駐車場の灰皿で消した。
「なんだよバート、そんな顔もするんだナ、心配するナ。みそらと留守を頼むナ! じゃ~行くよ」
俺の肩を軽く叩き、ゲントが家から出て行った。
(俺は、どんな顔をしていたのだろう?)
すぐに追い駆けて、ゲントが道路のかどを曲がり、見えなくなるまで見送った。
★★★★
リビングに戻り、テレビをつけて石が乾くのを待っていた。
「バートおはよう」
みそらが二階からおりて来て、台所に向かった。
「おはよう、みそら。朝食はなんだい?」
「今日は、時間がないからB.L.E.Tサンドにするね」
「分かった。頼むな」
(B.L.E.Tサンドとは、なんだ?)
分かっているように返事を返したが、俺には何が出て来るのか? 全く分からなかった。
「バートはコーヒーを飲んで、待っていてね」
「ああ、有り難う。みそら」
出されたコーヒーを飲みながら、台所で朝食の準備をしている、みそらの手際の良さを(スゲーな~)と思いながら見ていた。
「出来たよぉー。バート」
出された皿には、トーストしたパンにベーコンと言う肉を焼いた物と、目玉焼きとレタスとトマトが挟まれていた。
確かに時間がない時に食べるには、効率の良い食べ物だった。
みそらは台所で片付けをしながら、立ったままで食べていた。
「みそらもこっちに来て、座って食べなさい」
お兄さんぶって言ったが、逆に言い返されてしまった。
「出掛ける女性は時間が必要なの。早く準備をしなくてはならないのよぉー」
「・・・・分かった。スマン」
元の国でもそうだった! 一定階級以上の女性達が出掛けると言うことは、自分達のステータスの確認も、兼ねていることがあるからだ。
(この国でも、そうなのか?)
それ以上、俺には何も言えなかった。
「ごちそうさま~ぁ。バートも時間の確認をしながら、お仕事をしてね」
俺に伝えて、ミソラは二階に上がって行った。
俺もB.L.E.Tサンドを食べ終えて、コーヒーカップと皿を洗って片付けた。
トラ先輩の食事の用意を済ませて、そのまま外に出た。
石を触り、石の乾き具合の確認をしながら時計に視線をやると、10時チョッと前だった。
(アサシンとしては当然の時間管理だな!)
ドヤ顔で自室に戻り、出掛ける準備をしてみそらのことを待っていた。
★★★★
〈コンコンコン〉
「バート、準備はどうかな? 大丈夫なら出掛けよう」
「準備はOKだ。みそら」
みそらから借りたバッグを肩に背負い、ドアを少し開けた瞬間だった。
体は覚えているようで、とっさに呪文、飛翔を唱え、部屋の天井に張り付いた。
(誰だ! 今のショートヘアの美女は? ヤマシマけにはロングヘアのかわいいみそらは居るが、あんな美女は居ないぞ?)
「バート、開けるよ~ぉ」
ショートヘアの美女とトラ先輩が俺の部屋に入って来た。
トラ先輩は俺の気配に気付いたのか? 上を見て俺と目が合った。
俺は〈しー〉のポーズをトラ先輩にしていた。
「あれ、居ない。何処から声が聞こえたんだろう? 下かな? トラ下に行くよ」
ショートヘアの美女とトラ先輩は、部屋を出て行った。
素早くしたにおりて、鳴かずに黙っていてくれたトラ先輩に感謝をした。
後でトラ先輩の好物を献上させていただきます。
誰だ? 声はミソラだが、匂いと外見が全く違う。
「バート、何処に居るのぉー。もう出掛ける時間だよぉー」
(ゲントに留守を頼まれているんだ! 何かがあってはダメなのだ!!)
素早く戦闘体制をとりながら、トイレのほうへと移動して、二階から、ショートヘアの美女を見ながら声を掛けた。
「トイレだぁー。今から下にいく~ぅ」
ショートヘアの美女が、二階を見ながら返事をした。
「はぁーい。待っているねぇー」
おいおい、あの美女はミソラだ……あっ! 昨夜見た攻略本と言う書物に描かれていた、キャラクターに似ているぞ。
俺は急いでしたにおりた。
俺を見て、ショートヘアの美女に言われた。
「バート遅いよぉー。急いで駅に向かうよ」
思わず、俺は言葉をかけて確認をしてしまった。
「み、みそらさん、なのかな?」
「もぉー、何を言っているのぉー、早く駅に向かうよ」
みそらであろう美女に腕をつかまれて、2人で家を出た。
12話に続きます。