13話 元アサシン、みそらとイベントへ行く。〈3〉
3人でコスプレ会場に入ると、とても広いスペースだった。
俺たち同様にコスプレをした人達と、みそらに聞いていたカメラを持っている人達で、いっぱいだった。
元の国で言えば、せんとうじゅうこうのような、体にじゅうこうを付けている格好をしている人達も居る。
みそらが学校に行く時に着ている服のような、派手なセーラー服やブレザーを着ている集団も居る。
(この国は、コスプレって文化なんだな)
「みーちゃん、バート君、写真を撮ろうよぉー」
「うん。リョウちゃん」
(さて俺は、2人に楽しんでもらうか)
2人にデジタルカメラと言う物を渡されて、使い方を教わり、2人のバトルシーンや呪文を唱えているポーズの写真を撮影していた。
俺も呼ばれて、みそらとりょうちゃんと一緒に、戦闘中のポーズや、呪文を唱えているポーズの撮影をしていた。
(みそらは、そのタわわなオパーイ様がポロリンしないように! りょうちゃんは、下着が見えないように! 注意をしながらで大変だった)
でも俺は、2人と写真の撮影をしつつも、とても不思議な感じがしていた。
なんで2人は、俺が元に居た国の呪文を唱えることが出来るんだろう? 師匠が使う服部流派の奥義、幻影分身と実体分身の呪文も唱えている、何故なんだ。
「あっ、見付けた。バートのコスプレの人、写真を一緒にお願いしまーす」
振り向くと、ウエルス国のアサシン部隊のスーツを着たヤツが居た。
条件反射で、つい戦闘のポーズで構えてしまった。
「待って、待って、その戦闘体制も決まりすぎでしょ~! 着替え中に声をかけた者です。やっぱりバートだったんですネー」
「あ、ああ、バートだが」
(なんで彼は、俺を知っているんだ?)
「スゲー似合っていますよー。スーツも凄いですネぇー、本物みたいですよ」
そのご、みそらとリョウちゃんにデジタルカメラを返してから、彼と一緒に撮影をしていた。
みそらとリョウちゃんも、俺達の戦闘シーンを、アチコチから撮影していた。
「有り難う御座いました」
ウエルス国のアサシン部隊のスーツを着た男性が、頭をさげて立ち去ろうとしていた。
だが俺は、すぐに彼を引き止めた。
「あ、スマン。あのさぁー、何で君は、俺がバートだと分かったんだイ?」
「だって、そのアサシンスーツとポニーテールの銀髪にパープルアイは、誰が見たって、ゲームのシップウ ゲキレツ アサシンズ マスターズのバートじゃないですか~ぁ」
俺はこのあと、彼から衝撃的なことを聞かされた。
彼は、イグニス国のことや、師匠のロギーや、兄弟子のタクマのことも知っていた。
彼がコスプレをしている、ウエルス国のバン王のことや、エミリア王妃のことも知っていた。
「シップウ ゲキレツ アサシンズ マスターズスリーには、バート、出るんですかねぇー」
「何故だい。バートに何かあったのかい?」
「シップウ ゲキレツ アサシンズ マスターズツーのバートルートで、行方不明だったタクマに、妖術薬師が調合した、妖術薬みたいな物を飲まされて、転移をさせられちゃったんですよおー。あっ、ネタバレならスイマセ~ン……じゃ、また~ぁ」
俺が居た元の国とは、シップウ ゲキレツ アサシンズ マスターズと言うゲームの世界なのか……。
この国に飛ばされた状況と酷似している。
俺は、ルノーン界の中にある全く知らない国に飛ばされたのではなく、テレビゲームから、この世界に飛ばされて来たのだろうか……。
(彼は、転移と言っていたな。この言葉は覚えておこう)
「そこの綺麗な2人~、写真の撮影、お願いしまーす」
彼はしっかり、みそらとリョウちゃんとも、撮影をして行った。
しばらく何も考えられない状態で、俺はボお~としていることしか出来ないでいた。
「バート!」
「バート君!」
みそらとリョウちゃんに呼ばれていることに、全く気付けなかった。
みそらに俺は、腕を捕まれたようだ。
「あっ、スマン。少し考え事をしていた」
「どうしたの? ナニか話をしていたけど、何か変なことを言われたの? 今の私達なら、相手が誰でもブッとバシテやんヨ」
2人を楽しませないとならないのに、逆に心配をさせちゃったな。
(だからみそら~、そんなに激しく動かないのー。リョウちゃんも脚を上げ過ぎだよー)
「スマン、2人とも! もう大丈夫だよ、有り難う。さぁ~、遊ぼうぜぇー」
自分のことを考えるのを一旦辞めて、2人の楽しいに全力で付き合った。
楽しいことを全力で楽しむ2人を見ていて、俺もなんだか嬉しくなってきた。
それに今日は、俺のこともなんとなくだが知れたしな。
イベントに誘ってくれたみそらには、本当に感謝だ。
(有り難う、みそら、リョウちゃん。少しだが、お礼だ!)
イベント終了の時間も迫り、人数も少なくなり、カメラを持っている人も居ないのを確認した。
俺は2人を、イベントスペースの隅に誘った。
「みそら、リョウちゃん。呪文はね、こう使うんだよ! 今日は本当に有り難う。2人だけに|披露するぜ」
2人を一定の位置に呪文のポーズで立ってもらい、2人のデジタルカメラを受け取った。
「体に風圧を感じても絶対に動かないでくれ。約束な!」
実体分身は、今の俺には、まだ使うことは出来ない。
だが、今の俺にも使える幻影分身の本物を、2人に披露をするために、両足を踏ん張って、呪文を唱える準備をした。
バン王の暗殺のために特訓を行い、アレンジをして手に入れた技だった。
だが、タクマの邪魔で使うことが出来なかったから、2人も初めてだから分からないだろう。
(いま思えば、元の国でも使えなかったのは残念だったけどな)
幻影分身はロギー師匠が3人の幻影を出し、実体の1人が攻撃をする呪文だ。
だが、俺の二式は幻影が2人になってしまうが、最後にぎんろうじょうノ気合い弾で、攻撃をすることが可能なんだ。
(行くぜ! 服部流 奥義 呪文 俺式の幻影分身 二式ぎんろう!)
2つのじゅじんが展開し、2人の幻影が現れた瞬間に、高速移動を開始し、みそらとリョウちゃんの周りを駆け回る。
(2人は、体に風圧を感じても、俺の高速な動きは普通の人からは見えないだろうからな)
ぎんろうを放ち、急いでデジタルカメラのシャッターを押した。
「ふぅ~ぅ……はい、もう動いていいよ。みそら、りょうちゃん」
ニコリと微笑み、2人にデジタルカメラを返した。
2人のデジタルカメラの画面には、2人が呪文のポーズをしている間で、俺がぎんろうのような影を、放っているポーズで写っていた。
例えるなら、3人が合体呪文の攻撃を放っているようだった。
「バート、これ、どうやったの? カメラを持っているバートの周りが光っていたけど」
「バート君、君は何者?」
2人の質問に、俺は笑顔で答えた。
「俺は、焼きイモ屋ゲンちゃんの店員であり、呪文と言う手品を少し使えるバートだよ。手品はさぁ~、仕掛けがあるから、2回目は出来ないんだけどね」
俺はこの前、みそらから教えられたテヘペロ顔をして、腕をクロスしながら、ダブルキュゥ~ンのポーズをして見せた。
イベントのテンションのお陰か? 2人はとても喜んでくれていた。
「皆さん、お疲れ様でした。コミックターゲット終了の時間です」
「あ~、もう終わりかぁ~。楽しかったね、みーちゃん」
「うん、楽しかったね~。りょうちゃん、バート」
「ああ、初めてだったが日本の文化に触れられて、俺も楽しかったよ。アリガトウな、みそら、リョウちゃん」
2人は、名残惜しそうにイベント会場を出て、更衣室で着替えを済ませて、3人で駅へと向かった。
★★★★
電車の中でも、みそらとリョウちゃんは楽しそうに話をしていたが、俺はイベント会場で聞かされた話のことしか、考えられなかった。
「次のイベントでも、2人の参加は決定だからね! じゃ~、みーちゃん、バート君、また遊ぼうネぇ~!」
駅に着き、バイバイをしながら、リョウちゃんと別れた。
(考え事をしながら乗っている40分は、とても短い時間なんだなーと思った)
14話に続きます。