16話 元アサシン、思いと決意と、秘密行動を開始する。
〈コンコンコン〉
「バート~、みそら、出掛けてくるからねぇ。お昼を食べてねー」
「はっ、はいよー。行ってらっしゃーい。ふぅ~~ん」
大きく伸びをして時計を見ると、14時を過ぎたところだった。
布団をしまい、まだ眠たい目をこすり、顔を洗って歯を磨き、一階におりた。
★★★★
リビングには、おにぎりが置いてあり、商店街に買い物と銀行に行くと、みそらのメモがテーブルに置かれていた。
俺が寝ている時に、ミソラは明日のイモを、準備してくれていたようだ。
「ありがと~な。みそら」
おにぎりを食べながら、俺も明日の準備をしていた。
乾いた石を二段の焼き台に敷き、みそらが用意をしてくれていたイモを積んだ。
「あれ、薪が少ないかなぁー」
薪が少なかったのを確認したので、呪文、八つ裂きを使い、仕事で使う薪を作り、薪置き場に積んで、車の荷台にも乗せていた。
「ただいま~みそら~。アレ、みそらは? バート」
「お帰り、ゲント。みそらは買い物と銀行に行っているぞ」
「そうか、ただいま。バート」
お土産をリビングに置き、荷物を持って二階に上がり、ゲントは着替えを済ませてオりて来た。
「ゲント、任務のほウは?」
「ああ、キッチリと済ませたよ。痛みも感じないぐらいにな」
親指を立てて、首のところを横に引いた。
この2日間にあった出来事や、自分のことをゲントに話した。
「そんなこと、まぁーバートが今、ここに居るから信じてはいるが、半信半疑なんだがな……」
ゲントはヤーニ〈タバコ〉に火をつけて、一服しながら、お茶を飲んだ。
ダッシュで自室に戻って攻略本を手に取り、リビングに戻り、ゲントに渡した。
「読んでくれ、ゲント! ゲントに話したことが、書いてあるはずだ」
ゲントは、黙って攻略本を読み続け、時々、俺のことを見て、また読み続けていた。
2冊の攻略本を読み終えると、俺にニコリと微笑んだ。
「なぁバート、これが本当のことなら、お前はどうしたい? 何が心配だ? 俺たち家族に出来ることはなんだ?」
この時、俺はゲントがロギー師匠と重なって見えていた。
だからなのかも知れない……思っていたことや、考えていたことを、無意識に話し出してしまっていた。
「俺が、突然消えてしまったことで、師匠達がどうなっているのか心配なのと。タクマニイが、俺を敵として消したのか、生かすために消したのかを知りたいんだ」
「このゲームは続きが出るぐらいの人気作品らしいんだ。もし続きが出ることになり、俺の話が作られたら、バート服部は、やましまバアトは、ゲントやみそらの前から突然、消えてしまうかもしれないんだ」
「俺は、そのことが、今はとても怖いんだ……ゲントとみそらには、今までと同じく、この世界での家族でいて欲しい」
あ~ぁ、これが、このことが、攻略本を読み、イベントで自分のことを知ってから感じている、俺の本当の感情だったんだな。
俺の思いを聞いたゲントに、頭を優しく撫でられた。
「バート、先のことはまだ分からんだろ? なら後悔をしないように毎日を懸命に生きろ! バート服部は、やましまバアトは、この世界で懸命に生きていたと胸を張り、元の世界に戻れた時に、師匠へ報告が出来る生き方をしろ!」
「俺達は家族になったんだろ? 家族は何があっても変わらないよ。心配するな! 2度と会えなくなっても、サヨナラは言わないよ。バート、またな!だ」
俺は熱い思いが止められず、涙を流しながら〈うん、うん〉と頷いて聞いていた。
ゲントは、ティッシュの箱を差し出して、俺に、手をグーにして出した。
出されたティッシュを取り、出されたグーに、俺も手をグーにして、タッチした。
このことは、みそらには伝えないようにゲントに頼み、攻略本を持ち自室に戻った。
★★★★
〈ウ~ウ~、ウ~ウ~、みちを開けて下さい。緊急車両が通ります〉
〈ウ~ウ~、ウ~ウ~、みちを開けて下さい。緊急車両が通ります〉
〈ウ~ウ~、ウ~ウ~〉
〈ウ~ウ~、ウ~ウ~〉
(ウルサイな~。宣伝放送も、これぐらいの音量でさせてくれよ……全く)
二階に戻った俺は、ゲントに言われたことを、攻略本を読みながら考えていた。
俺は元アサシンだ、ゲントが所属するしどうの手伝いをすることが、ベストな選択なんだろう。
だが俺は、この世界の人間ではないことが、ほぼ判明している。
この世界の人間ではない俺が、この世界の人間に、任務と言う暗殺を、遂行してもいいのだろうか……。
〈ウ~ウ~、ウ~ウ~、緊急です、緊急です。みちを開けて下さい〉
「なんだよ今日は、何台の車がこの音を鳴らしているんだ?」
呪文、集音を使い、この音を探った。
「1つ、2つ、3つ、4つ」
オイオイ、凄い数の車が、この音を鳴らしながらアチコチから走って来ているぞ。
★★★★
素早く窓から屋根に上がり、屋根づたいに、この辺りでは1番高い桜湯と言う銭湯の屋上に上がり、音の集まる方向を探った。
「この方向は、牛丼屋さんの方向だな」
俺の近々の目標は、初めて貰う給金で、牛丼屋さんに行き、ゲントとみそらと、腹イッパイ牛丼を食べること、恩返しをすることが目標だったんだぞ。
(牛丼屋さん、大丈夫かな?)
素早く自室に戻り、リビングに向かった。
★★★★
「ゲント、牛丼屋さんのほうで、何かがあったようだぞ?」
「ああ、銀行強盗みたいだ。いま臨時ニュースと中継が入っているよ」
テレビには、牛丼屋さんの前にある銀行の周りに、赤い光を回した車がたくさん止まっているのが映されていた。
(あれ、銀行?)
俺のアサシンとしての勘なのか? 嫌な感覚を体に告げていた。
素早く、台所と車庫の確認をした。
「ゲント、みそらは?」
「まだ、帰って来てないぞ」
(ナンだ、なんだ、この変な感覚は……)
あれから1時間が過ぎても、みそらが帰って来ない。
俺のイヤな予感は、どんどん強くなっていた。
〈バァーーン〉
テレビから、何かの破裂音がして、一瞬だったが縦開きのブラインドカーテンが動いた時に、目隠しをされている、みそらが見えてしまった。
「ゲント! みそらが銀行の中に居たぞ! 俺にはハッキリと見えたんだ。目隠しをされていたが、あれはみそらだった」
「なんだと! 本当かバート」
ゲントの顔がひきつり、顔色が青ざめ出した。
ゲントは急いで二階に上がり、初めて見る暗殺服を着てオりて来た。
だが俺は、急いでゲントを制止した。
「駄目だ。ゲント! ゲントの素性が知られてしまう」
「なら、みそらはどうするんだ! みそらが、みそらが」
「俺が行くよ、ゲント! みそらは、俺にも大切な家族なんだ! 妹なんだ。元の世界に戻れたら、師匠と亡き母に胸を張り、家族の救出をしたんだと、報告をしたいからな!」
「なら、バートに今回の任務を頼む」
俺は首を左右に振り、興奮しているゲントを安心させるために、ゲントの肩を、軽く叩いた。
「ゲント、今回は暗殺が任務ではない。家族と人質の救出と、ゴミ悪党の捕縛だ!」
ゲントの真似をして、俺も親指を立てて下に向けた。
「バート、娘を、みそらと人質の救出を頼む。空にヘリコプターと言う飛行している機械も飛んでいるから、気を付けてな!」
「ああ、了解した。ゲント師匠! 任せてくれ」
急いで二階に上がろうとした時だ。
「バート、部屋に来い」
2人でゲントの部屋に行き、新たなアサシンスーツを渡された。
★★★★
「お前がしどうに参加をするなら、使わせようと思っていたんだよ。使ってくれバート」
「有り難う、ゲント。しどうに参加出来るか分からないが、有り難く使わせてもらう」
急いで、新たな暗殺服と言う、アサシンスーツを着用して、薄暗くなり始めた銀行へ、ミソラと人質の救出へと向かった。
17話に続きます。