17話 暗殺だけがアサシンのしごとじゃねーんだぜ! これはアサシンとして、俺が選んだことなんだ。〈1〉
しどう製のアサシンスーツのデザインは、ライダースーツと言う物に似ているそうだ。
寒い時期には着用している人が多いので、特に目立つことがないらしい。
このような状況の時ほど、街の中に溶け込むことが、俺達の常識行動だからな。
それにしても、この世界のアサシンスーツは、とても素晴らしいデキだった。
着用している時にゲントから説明をされた。
ほぼ刃物で切られることはなく、銃と言われる兵器も、頭を撃ち抜かれなければ、死んでしまうことがないほどの耐久力らしい。
移動中に、空の機械の確認をして、銀行に近付ける限界のところまで近寄った。
(この世界は明る過ぎる)
元の世界なら闇隠れを使うのだが、無理だと判断をして、五階に上がるルートの選定をしながら、その場から一旦離れた。
★★★★
俺達アサシンは、目標が決まると、それが線となり、ルートが見える。
しばらくルートを探っていると、その線が一致する場所を見付けた。
(ヨシ。このルートだな)
ヘリコプターと言う機械に注意をしながら、マスクを着けた。
少し不安だったが、覚えたての呪文、隠密を唱えて、素早く屋根づたいに銀行の屋上へと上がった。
(ちゃんと隠密の効果は、掛かっているのだろうか?)
呪文、集音を使い、ドアを軽くノックした。
(強盗犯は少人数なのか?)
ドアの向こうには、誰も居ないようだ。
素早く鍵を開けて、中に潜入をして、任務を開始した。
★★★★
階段をおりて行く途中に鏡があり、残念だが薄っすら俺の姿と影が出てしまっていた。
(チィッ、仕方がない。これで今回はヤルゾ!)
三階におりようとした時、誰かが上がって来る足音が聞こえた。
呪文、飛翔を唱え、天井に張り付き、ゲントから受け取った睡眠薬の吹き矢を構えて待っていた。
「威張ってねーで、テメーらも見廻りヤレって。チィッ」
見廻りなのだろうか? 1人の男が五階へ上がって行こうとしていた。
〈フッ〉
ゲント達が使っている睡眠薬は、効果が抜群だった。
俺が放った針は、確実に男の首に刺さり、5歩も上がらないうちに崩れ落ちそうになっていた。
急いでしたにおりて、男を支えて、音がしないように横にさせた。
素早く腕と脚を後ろに回し、拘束具を使い、手と脚の拘束を同時に行い、動けないようにした。
口と目にテープを張り付けて、抵抗不能状態にして、首から針を抜いて、素早く一階までおりた。
★★★★
室内の声を聞き、出入口の確認を済ませて、素早く呪文、飛翔を唱えて、天井に張り付いた。
「オイ、てめーら、逃走用の車はまだなのかよー。早くしないと人質を1人づつやっちまうからな」
強盗犯は誰かと連絡をしているみたいだ。
人質であろう人達の確認と、室内に血の匂いと、血痕がないかの確認をした。
床に血痕がないので、人質に大きな怪我がないことが知れてホッとした。
(目隠しをされているのが人質だとすれば、7人だ)
俺はすぐに、強盗犯の特定をした。
(強盗犯は、スマホと銃を持っている奴と、銃を持っている奴の2人だけのようだな)
銃だけを持っている奴の行動に、視線が向いていた時だった。
「貴様は誰だ! 死ねよ!」
〈バァーン〉
スマホで連絡をしていた男が、声を荒げて、俺に向けて銃を放った。
不意をつかれた俺は、脇腹を撃たれて、天井から床に打ち落とされた。
(うっ、1本、持って行かれたか……)
鈍器で叩きつけられたような痛みが、脇腹からしていた。
(銃と言う武器は、こんなに威力がある武器なのか……)
なんとか片膝を付き、体制を立て直すと、強盗犯からスマホを見せられた。
そこには、痛みで脂汗を垂らしている俺が映っていた。
スマホと言う物は、連絡が終わると黒くなり、鏡のようになるようだ。
人質に大きな怪我がないことが知れて、ホッとしてしまった俺のミスだ……。
(肝心な時に隠密の効果が切れていたことに、気付けなかったか……クソッ。この世界でも俺は……また)
「なぁ、見せしめに何人かやっちまおうぜ!」
もう1人の男が、人質のほうへ行こうとしていた。
任務中に言葉を発することは、アサシンには厳禁だ。
(まだ俺は未熟者だな! ロギー師匠、ゲント師匠。もうバレテもいい! みそらと人質を救えるのなら)
俺の長所でもあり、短所でもある熱い思いが込み上げ、感情が出てしまった。
「キ、貴様ら、いいか? 人質に何かしてみろよ。俺の全力で、この世界から貴様らのにくへんも残さずに、消し去ってやるからな」
俺に銃を撃った男が近付き、マスクを引き剥がされた。
「お前は、この状況で何を言っちゃっているのかな? なら、お前から先にやっちゃおうかな~ぁ」
強盗犯が俺に銃を構えて、ニヤリと笑った瞬間だった。
(今だ! 頼む、耐えてくれよ俺のからだ)
「呪文、服部流奥義、俺式の、幻影分身二式、ぎんろうダぁーー」
2つのじゅじんが展開し、2人の幻影が現れたのだが、負傷している影響で、強盗犯には、実体の俺と幻影の2人が見えてしまっているようだ。
〈バン、バン、バン、バン、バン〉と、2人は俺の残像を追い、アチコチに銃を撃ちまくっている。
(こいつら、銃を撃つことに、ためらいがない……)
だが本物は俺だけだ! 一度その攻撃をもろに受けているんだ。
銃の対処方法も、もう分かった。
だが人質に、流れダマが当たるかも知れない……マズイな。
奥義中の2重呪文は、特訓中にも試したことが、俺にはなかった。
(この状態のからだで、俺に出来るのか?)
いや、考えている余裕なんて、今の俺にはないんだ。
「燃え上がれ、限界を超えろー。呪文、影縫いだあぁー!」
奥義中に2重呪文を唱え、影縫い用の針を放った。
あれだけ撃ち続けていた銃の音も止み、強盗犯の2人はピクリとも動けず、言葉も出せないようだった。
2人の銃を叩き落として、吹き矢用の睡眠薬の針を、2人の首に刺した。
だが俺の体は、ここまでが限界だった。
(ヤ、ヤバイ、い、意識が飛んでしまいそうだ……)
激しい痛みが脇腹からしていたのと、初めて使った奥義中の2重呪文のため、ぎんろうを放つところまでの状態ではなかった。
「こいつ、ば、化け物だ!」
「き、貴様は、何者なんだ」
「はぁ、はぁ、ふぅ~……」
上がっている呼吸を整えて、悪党の質問に答えてやったぜぇ……ニヤリ。
「スマンな。俺には貴様らみたいな悪党に、名乗る名前を持ち合わせてない! ここが、ルノーン界でなくて良かったなぁ。命があるだけでも感謝しろよ」
強盗犯の2人は、イビキをかきながら、そのままその場に崩れ堕ちた。
痛む体にムチを打ち、爆睡している強盗犯2人の拘束を、素早く済ませた。
影縫いで使った針を回収して、強盗犯2人の首から睡眠薬の針を抜いた。
「もう大丈夫です。みなさん・・・・」
「・・・・? あ、あれ!?」
返事がないのでよく見ると、耳栓までされていた。
(怖かっただろうに。終わりましたからね)
もう一度、呪文、隠密を唱えてマスクを着け直し、素早く出入口の鍵を開けてシャッターのボタンを押した。
痛む脇腹を押さえながら、急いで五階に駆け上がった。
五階のドアを開けて、空を飛ぶ機械の確認をしてからしたの確認をした。
銀行に、おおぜいの人が入って行くのを確認したので、あとのことは任せて、そのまま俺ワやみへとまギれた。
その日、夜遅くにゲントとみそらは、警察から帰ってきた。
18話に続きます