マネージャーの背後から、一人の女性が会場に現れた。
華やかなドレスとシャンデリアがきらめく宴の場が、まるで一瞬で静止したかのように、すべての視線が藤原遥に注がれる。
彼女は9センチのヒールを履き、正確な足取りでレッドカーペットを進み、藤原知世のもとへと向かう。その立ち居振る舞いは完璧で、堂々とした雰囲気は会場の誰にも引けを取らず、まったく物怖じする様子もなかった。
西洋風のドレスやダイヤモンドがきらめく中、彼女の和の装いはまるで動く浮世絵のよう。清らかで気品があり、他とは一線を画していた。
彼女のドレスも「有田焼の趣」シリーズで、メインカラーは瓶覗色。襟元や袖口には象牙色の縁取りが施されている。内側は最高級の絹、外側は西陣織で、伝統的な波模様の刺繍が入っていた。
二人が並んで立つと、本当の姉妹のようで、周囲がかすんで見えるほど。いや、むしろ遥の方が知世よりも一段と輝いて見えた。
その美貌は、誰もが目を奪われてしまうほど。
やわらかな眉は自然な美しさで、切れ長の目は清水に浸したような黒翡翠色。視線を流すだけで、妖艶さと冷ややかさが混じり合い、誰もが思わず目を逸らしたくなるほどだった。
場内は水を打ったように静まり返る。
この反応も、知世にとっては予想通りだったのか、彼女はただ眉を少し上げただけだった。
遥が知世の隣まで来て立ち止まり、落ち着いた声で言う。
「はじめまして、藤原遥です。」
その余裕は、知世をも上回っていた。知世は心の中で驚いた——家ではあんなにおとなしかったのに、これは演技だったのか?まったく怯えていないなんて――。
会場がざわめき、感嘆の声があがる。まさか藤原家のお嬢様が、皆の想像とはまるで違う女性だとは、誰も思っていなかった。プライドの高い者たちでさえ、その美しさを認めざるを得なかった。
「信じられない……あのスラム出身の子が?」
「藤原家って、実は遥をずっと桜華学園で特別に教育してたんじゃないの?じゃなきゃ、このオーラは説明できない」
「知世だけでもすごいのに、また新たな藤原遥が現れて……もう勝ち目ないよ」
「九条家の御曹司も、きっと彼女に心惹かれるはずだよな」
「でも、一人しか選べないんでしょ?自分にもチャンスあるかな……」
人々の視線は二人の姉妹の間を行き来する。二人は仲が悪いと聞いていたはずなのに、同じシリーズのドレスに、完璧なメイクとヘア。これは明らかに知世のチームによるものだ。知世がチームを貸したのなら、世間で噂されるような不仲ではないのかもしれない。
同時に、注目を奪われた知世の心境にも皆が注目していた。
「知世さん、何か言わないの?本当にあなたのお姉さんなの?」
「ええ、間違いありません。」知世は頷き、相変わらずのプライドで、それ以上の説明はしない。
「知世、みんなを紹介してくれない?」と遥が声をかける。
知世は鼻で笑い、「みんなそこにいるじゃない。私は面倒だから自分で聞いて」と答えた。
みんなは目配せをする――やっぱり知世はお姉さんのことをあまり良く思っていないらしい。それでも遥の顔を立てて、多くの人が自ら話しかけに来る。特に若い男性たちは目を輝かせていたが、知世の前ではあまり露骨にはできなかった。
遥は程よく受け答えしつつも、笑顔でやんわりと距離を保っていた。多くの令嬢たちは知世の側に集まり、彼女の肩を持つ。
「知世、黙って見てていいの?あなたこそ藤原家で一番大切に育てられたのに!」
「そうよ、あなたの方がふさわしい。もし言ってくれたら、あとで遥さんに思い知らせてあげるわ」
知世は淡々と手を振る。「一人増えただけよ。みんな、いつも通り楽しんで」
しかし、中には場をかき乱す者もいる。
「ねえ、藤原家の本当のお嬢様……あ、今は知世さんって呼ばないとね?」神代さんがわざとらしく口元を押さえ、「どうしてまだ主人のような顔してるの?この雲鏡軒は、藤原家の長女に贈られたものなんでしょう?あなた、その席、譲るべきじゃない?」と皮肉を言う。神代家は東京でも有名で、神代さんは何かと知世と張り合いたがっている。
「何言ってるの!雲鏡軒の名義はちゃんと知世のものだよ!」すぐに知世の友人が反論する。
「今そんなこと言っても仕方ないでしょ?決めるのは私たちじゃないし」
知世自身は落ち着いた様子で、「お姉さんがうまくやれるなら、雲鏡軒を譲ってもかまわないわ」と、少し小馬鹿にしたような口調で言う。これにはみな、くすっと笑った。どうせ遥に譲ったところで、経営なんてできるはずがない、と。
「知世のものを、無理に奪うつもりはありません」と遥は穏やかに言った。
「藤原家の本家の長女がそんなに控えめじゃ、この家ではやっていけないわよ」と神代さんは苛立ちを隠せない。
「神主様が言っていました。私は長生きする運命なんですって、百歳まで生きられるそうですよ」と遥は微笑み、何事にも動じない様子で神代さんをかわした。
「もう、みんなで集まってないで、ゲームでもしない?」知世がさっさと立ち上がり、エンターテインメントコーナーに向かった。最初から最後まで、遥の方を一度も見なかった。
多くの人が後を追い、残った人たちは引き続き遥の周りに集まり、彼女について何か聞き出そうとした。
「ごめんなさい、少し席を外します。皆さん、どうぞご自由に」と遥はやんわりと断り、砂利の庭へと歩いていった――これ以上囲まれるのは、さすがに居心地が悪かったのだ。