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第15話 思わぬ暴露


翌朝、藤原遥は早起きした。家族はみな揃っていて、彼女が出かけるのを見送ろうと待っていた。何日か出張で家を空けるため、直接顔を合わせて挨拶したかったのだ。


「遥、起きたの?顔を洗ったら朝ごはんにしなさい」と美智が声をかける。

「うん、お母さん」


食卓は和やかな雰囲気に包まれていた。話が進むうちに、九条森の話題に移り、家族は遥の九条森に対する印象を探ろうとした。


「彼は……」遥は眉をひそめ、何か言いかけて口をつぐむ。

家族全員が緊張して彼女の言葉を待った。


遥はふいに顔を上げ、家族を順に見回したあと、知世に視線を止めた。

「彼、知世のことが苦手だって。強すぎるから嫌なんだって。それに、知世が人を殺すところを見たって言ってた」


その言葉が落ちると、食卓は一瞬で静まり返った。隣の佐藤さんも、そっと目を伏せる。


知世は「……」と言葉が出ない。

(なんてことを言いふらしてるのよ!いや、完全な嘘でもないか……私が手を下すところ、彼に見られたことなんてあったっけ?ほとんど自分でやらないはずだけど)


家族は顔を見合わせ、どう返事すればいいかわからず困惑していた。認めてしまえば遥を怖がらせるかもしれないし、否定すれば嘘をつくことになる……。九条家のあの若造、どこの家が婚約者と初対面でこんな話するのよ、と頭を抱えていた。


「お父さん、お母さん、雅人さん、涼さん、光さん、知世、彼の話って本当なの?」遥は一人ひとり名前を挙げて問いかけた。


皆がまた顔を見合わせ、今度は知世に説明を促す視線を送る。

知世はそれを察して、テーブルをパシッと叩いて立ち上がった。


「名誉毀損よ!でたらめもいい加減にして。三年ぶりに会ったと思ったら、私のことをそんなふうに言いふらすなんて!」


その迫力ある声に、家族は思わず驚いた。


「遥、お姉ちゃんの話なんて信じなくていいから。あの人、この三年間どこか精神病院にでもいたんじゃないの?まともに取り合う必要ないわよ」と知世は一転して柔らかく言った。


遥はおずおずと頷く。正直、九条森の「知世はちょっと怖い」という言葉には納得してしまう自分がいる……つまり、本当に人を殺したことがあるの?しかも九条森に知られている?


知世は優雅にスカートの裾を整えて、落ち着いて椅子に座り直し、静かな声で「遥、わかってくれたならいいの。さ、食べましょう」と促した。


それぞれが複雑な思いを抱えながらも、家族は何事もなかったかのように朝食を終えた。


――九条家――


朝食の席で、家長の九条峰は森のことが気に入らず、どうにかして文句を言いたいのを我慢していた。


「お父様、そんなに仏頂面してたらご飯がまずくなるよ。もしかして俺の顔見ると食欲なくす?ひどい親父だな。まさか本当は義父じゃないよな?一度DNA鑑定でもする?」と森が遠慮なく言い放つ。


「バカ息子!誰が主人子だって?俺はまだ四十代だぞ。男は四十一からが花なんだよ、覚えとけ!」


森の母は早くに亡くなり、峰が一人で息子を育ててきたが、このありさまだ。


九条家は家族が少なく、藤原家のように複雑ではないのが救いだ。そうでなければ、森が跡取りどころか無事に生きていけるかも怪しかった。


弟の九条明は体が弱いが、兄よりはずっと手がかからず、たびたび問題処理を代わってくれている。


ますます腹が立ってきて、「外で死んでくればよかったのに、なんで帰ってきて邪魔するんだ」と峰が吐き捨てると、


森はにやりと笑って、「だって、お父様、孫が欲しいって言ってたでしょ?その夢を叶えに帰ってきたんだよ」と返した。


峰は思わず固まる。「お前が?誰が相手してくれるって?」

静かに朝食を取っていた明も、疑わしそうに兄を見上げる。


「藤原家と婚約してるの、忘れたの?そろそろ約束を果たす時でしょ」と森が言う。


「なんだよ、急に。前は絶対に嫌だって言ってたくせに。何を企んでる?」と峰が問い詰める。


「今は昔、今は今ってことで」


「はっきり言え!」と峰は訝しげに息子を見つめる。「お前、藤原家の知世が強すぎて嫌だって言ってなかったか?家にお前みたいな厄介者が一人いれば十分なのに、嫁まで厄介者じゃ困るだろ。今はもう怖くないのか?」


実は峰は知世のようなタイプが嫁にぴったりだと思っている。森をしっかり締めてくれそうだからだ。


「いやいや、お父様。俺が婚約してるのは藤原家の本家の長女のほう。今言ってるのは知世のことだよ」と森が訂正する。


峰はまた固まった。「つまり……」


「そう、その通り」


「兄さん、本気なの?」と明も珍しく口を挟む。


「そういえば忘れてた……」と峰がつぶやき、すぐ怒りの表情に変わる。「あの娘が帰ってきたばかりなのに、もう目をつけたのか?藤原家の連中に知られたら、足の骨の一本や二本は折られるぞ!」


「うん」と森はあっさり認める。


「昨日帰ってきたばかりで、もう気に入ったのか?いつ会ったんだ?俺はまだ写真も見てないぞ」


「そこは俺に任せて、心配いらないよ」


峰は急に興味を持ち、もう怒る気も失せた。「で、藤原家の本当のお嬢さん、どうだったんだ?」


明も耳をそばだてる。


「見た目は素直そうだった」と森が答える。ちょっとしたワガママもあるが、可愛くて好みに合っていた。


「それだけか?」


「好きになっちゃダメか?」


「なんて浅はかなんだ」と峰が呆れる。


「でもさ、家同士の縁談なんだから、お父様の願い通りでしょ?」


「お前があの娘を不幸にしないか心配なんだよ。本当に大人しい子なら、絶対お前にいじめられる。ダメだ!」


「いやいや、お父様、彼女の後ろには藤原家がいるんだよ?俺がいじめるわけないじゃん。昨日だって、足を踏まれてまだ痛いんだから」



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