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第18話 思いがけない指摘


一行は外に出ると、黒沢竜也の「ご厚意」で彼の車に乗り込んだ。運転手も彼の側近だ。


車が進むにつれ、藤原知世は違和感を覚えた。「黒沢さん、これは会社へ向かう道じゃありませんよね。」まるで藤原家で“裏切り者”を処分する場所へ向かっているようだった。


「もう事は起きてしまった。今さら会社で話し合っても仕方ない。ここは少し荒っぽいやり方を試してみようと思ってるが、どうだい?」黒沢の口調は淡々としていたが、どこか愉快そうだった。


「もう準備は済んでいるのに、僕たちに相談する意味は?」と知世が返す。


「一応、形式は大事だからな。特に久々に帰ってきたお嬢さんには、参加してもらわないと。」黒沢は皮肉っぽく遥に目を向ける。


誰も彼の本心を読めなかった。


「お姉ちゃんが帰ってきたばかりなのに、そんな所に連れて行くのはどうかと思うよ?」知世は家を出る前に両親に連絡していたので、ある程度覚悟はできていた。


「どうせいずれは経験することだ。慣れてもらうだけさ。」黒沢は遥に視線を向ける。「遥さんはどう思う?」


「いいですよ。むしろ、みんなが私に隠してること、見せてもらおうかな。」遥は淡々と答えた。


目的地に着くと、場所は意外にも人通りの多いエリアだった。遥は周囲を見渡し、付近に私服の護衛たちが紛れていることに気付く。彼らは住民や通行人を装っていた。


「じゃあ行こう。場所はショッピングモールの地下二階だ。」黒沢が先頭を歩く。地下1階は普通の倉庫だが、防音設備がやけに多かった。


地下2階に降りると、薄暗い照明の中、古びたLEDライトがちらつき、不穏な空気が漂っている。鼻を突くような臭いもした。


知世は不快そうに鼻を手で仰いだ。「黒沢さん、掃除くらいしたらどうです?この臭いじゃ拷問の前に倒れそう。」


「知世さんは滅多に来ないからな。佐藤執事なんて、まるで気にしていないだろう。」黒沢が言う。実際、佐藤はこういった状況に慣れている。


組員たちは各入口に散らばり、最奥部には黒沢、藤原姉妹、佐藤の四人だけが進んだ。


黒沢がカードキーでドアを開けると、「ピッ」と音がして赤いランプが緑に変わる。さらに強烈な臭気が押し寄せ、遥も思わず眉をひそめる。知世はさらに顔をしかめ、入口で立ち止まって遥の前に立った。


「黒沢さん、こういうのは佐藤執事に任せればいいでしょう?私たちは入らなくても。」


「せっかく来たのに、帰る理由はないだろう?中の連中、もしかしたら君たちを驚かせるかもしれないよ。」黒沢は意味ありげに微笑む。


結局、二人も中に入ることになった。


一番奥の尋問室には三人の男がそれぞれ電気椅子に縛り付けられ、手足は拘束され、目隠しをされ、口には汚れた布が詰められていた。身体には傷も見える。人の気配を感じると、彼らはうめき声をあげた。


護衛が男たちの肩を強く押さえつけ、爪が食い込むほどだった。「静かにしろ!」


黒沢は彼らを指さしながら笑った。「会社の機密が漏れた。こいつら三人が露見したんだ。二人は競合会社のスパイ、もう一人は裏切り者さ。」


「何か吐いたの?」知世は鼻を押さえながら眉をひそめる。


「なかなか口を割らないよ。ただ、面白いことに気付いた。」黒沢は合図を送り、護衛が三人の目隠しを外した。


真ん中の二十歳前後の青年は、目隠しが取れると遥を見て目を見開き、興奮した様子でさらに大きくうめき始めた。


知世は無表情で遥の前に立ち、冷たい目で警戒する。佐藤は無言で近づくと、青年の頭を一発殴った。「おとなしくしろ、聞こえないのか?」その手は容赦なかった。


黒沢は護衛に合図し、男の口から布を引き抜かせた。「何を言いたいのか、聞いてみようじゃないか。」


男は遥から目を離さず、口が自由になるとすぐに叫んだ。「この人だ!間違いない!俺はこの人を見たことがある!M国のメディアジア・ヤモン地区、マンダラ会の縄張りで!」


彼はもともと黒龍会の一員だったが、上司に睨まれ命の危険を感じ、日本に逃げてきた。遥のことは一度だけ遠くから見ただけだが、その容姿と雰囲気があまりに印象的で、強く記憶に残っていた。


黒沢は不気味な笑みを浮かべる。藤原家の誰もが遥の過去を探っていたが、何も掴めなかった。黒沢も最初は藤原家が情報を隠したと思っていたが、やがて家の両親すら遥の素性を知らないと知り、本格的に調査を始め、この男を突き止めたのだった。実際、男はスパイではなく、三年前から黒沢組にいた下っ端の組員だ。遥の写真が出回った直後、男が自ら名乗り出てきた。この一件は黒沢の仕組んだものだった。


黒沢はあえて驚いたふりをする。「そんなこと言っていいのか?うちのお嬢さんに会ったなんて、あり得ないだろう。もし会ったとしても、F国のはずだ。なぜM国なんだ?」


知世と佐藤は内心驚いた。遥の過去をこの老獪な男に先を越されるとは。もし知られてはいけないことまで掴まれていたら……二人は思わず遥の表情を窺うが、彼女も困惑した様子を見せていたので、少し安心した。


「絶対に間違いありません!あの時見た少女は、この人です!こんな美しい人、他にいません!」男は断言した。


黒沢はすかさず追及する。「うちのお嬢さんがマンダラ会の縄張りに現れるなんて、どうして君が知ってるんだ?」



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