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第25話 幻紫の降臨


いくら自分に言い聞かせても、藤原知世の心にはどうしようもない絶望がじわじわと広がっていった。逃れようとしたが、もう力は残っていない。


画面の向こう側では、藤原柏山と黒沢竜也がシャンパンを開け、余裕の表情でこれからの知世の運命を観賞していた。まるで完璧な芸術作品を眺めるかのように。


だが突然、画面が真っ暗になり、映像が途切れた。


二人は慌てて立ち上がり、機器を確認したが、異常はなかった。どうやら向こう側の信号が遮断されたようだ。すぐに竹内組に連絡を取ろうとしたが、まったく繋がらない。まるでその一帯全体が完全に隔絶されたかのようだった。


「急げ!現場の様子を見てこい!」と竜也が組員二人に指示を出す。このタイミングでトラブルは絶対に困る。だが、あちらは竹内組の縄張りで人手も多い。たとえ藤原健介たちが押しかけてきても、そう簡単にはやられないはず。自分たちはいつだって慎重に動き、無茶はしない。


一方、竹内組も異変に気づいていた。


「親分、信号が切れました!」


「放っとけ。向こうで何か急ぎの用かもしれん。お前らは作業を続けろ。」組長はタバコを指先で落とした。


その言葉が終わるや否や、正面の扉が大音響と共に吹き飛んだ。凄まじい爆発音に全員が身をすくめ、床まで揺れたように感じた。


「何があったか見てこい!」組長が鋭く命じる。まさか襲撃か?誰がこんな大胆な真似を?入り口には仲間が見張っていたはずだが、どうして警告もなかった?扉は枠だけになり、もう通り放題だ。注意を引くための陽動か?


狙いは間違いなく的中し、知世への注意はすっかり逸れていた。


「まず彼女を押さえておけ!ここは危険だ、すぐに移動の準備を!」組長が指示を出す。


その直後、外から再び爆発音が響き、炎が廃ビル全体を包み込もうとしていた。外で組員たちが爆風にやられ、苦しみ叫ぶ声がはっきりと聞こえてくる。組長は思わず恐怖に駆られた。いったい誰が?東京のど真ん中で何度も爆発を仕掛けるなんて。


竹内組は人数こそ多いが、所詮はチンピラの寄せ集め。武器も密輸の拳銃程度が関の山で、重火器は大事にしまい込んでいた。これ以上爆発が続けば、全滅もあり得る。


「親分!大変です!外に大勢が押し寄せて、全ての出口が塞がれてます!」組員が慌てて報告した。


組長は眉をひそめる。「外の二重警備はどうした?敵が乗り込んできたのに、誰も報告しなかったのか?」


「たぶん……みんなやられたんだと思います……」


組長は思わず息を飲んだ。誰にここまで恨みを買ったのか?藤原家だって、ここまで露骨なことはしないだろう。「どこの組織だ?」


「ヤクザじゃありません……この辺の勢力でもない。国際的な殺し屋か傭兵集団のような連中で、腕前も桁違いです。うちの連中じゃ全然太刀打ちできません……」


「国際」という言葉に、組長の不安はさらに膨らんだ。海外の大組織が東京に乗り込んできたのか?しかもなぜ竹内組を狙って?


困惑していると、部屋のドアが勢いよく蹴り破られた。真っ黒な銃口が真っ先に現れ、続いて統一された戦闘服に身を包んだ十数人が次々と入ってきて、組長たちを取り囲んだ。


人数は十数人に過ぎないが、ただならぬ殺気に竹内組の面々は背筋が凍りついた。


「どうやって入ってきた?外には何百人も仲間がいたはずだ!」組長は、時間稼ぎを期待していた。


リーダー格の青髪の少年が鼻で笑う。「そこの窓から覗いてみろ。」


組員の一人が窓に駆け寄り、外を覗いた瞬間、顔色を変えてよろめきながら戻ってきた。「親分……外は全員捕まってます!敵の数は圧倒的で、誰一人歯が立ちません!」


もう一人、軍師風の組員が組長の耳元で小声で囁く。「親分、無理に戦うのは得策じゃありません。人数で既に負けてますし、あの武器は世界的な軍事基地でしか手に入らない最新型です。うちは到底手が出せません。それに、あの制服と黒いフェニックスのマーク……国際的な暗殺組織“幻紫”の専用シンボルです!」


組長は息が止まりそうになり、足元が震えた。


軍師は続ける。「でもご心配なく。幻紫の精鋭は普段は表に出ません。今いるのは下っ端でしょう。それにしても、情報班も相当優秀みたいで、外部との連絡は完全に遮断されてます。ここはもう孤立状態です。」


組長は頷いたが、恐怖は拭えない。たとえ下っ端でも、幻紫の連中はただ者じゃない。なぜ自分がこんな大勢の殺し屋に狙われたのか。そもそも、殺し屋なんて普通は単独で動くはずなのに。


目の前の十数人が放つ威圧感に、竹内組はまるでただのチンピラ集団のように見えた。


「何をぐだぐだ言ってる?俺を無視する気か?」青髪の少年がいきなり銃を構え、組長の部下の一人の額を正確に撃ち抜いた。


死体がその場に崩れ落ちる。


「待ってくれ!話し合おう、頼むから撃たないでくれ!」組長は涙目になりながら叫んだ。なぜこんな簡単に撃ち殺すんだ。せめて理由くらいは聞かせてくれ……



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