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第3話 迎えの馬車が先進技術の塊だった件

「うわあ……すごい」


いざ馬車に乗り込んでみると、見たこともないものが壁や椅子、扉や天井にまで埋め込まれ、見たことのない模様が描かれていた。

素材も、見たことがないような、滑らかな皮のような石のようなものが組み合わされて出来ている。

これは装飾……なの? いや、何かの道具? まったく想像が出来ないわ。


たとえるなら、これはまるで、古代神殿のよう……。


「どうされました? お嬢様」

「なんなんですか……この馬車」

「? ああ、この地方では珍しい内装でしたか」

「まあ……」

珍しいの一言で片づけられる話じゃないのだけど。


帝国ヤバイ。

というか帝国についての情報、わたし一切ないんだけど。

本国との国交ほとんどなかったし、隣とは言っても直接行ける場所じゃなくて、遠回りしたり海路とかじゃないと行けない場所のはず。

だから、お迎えが早かったのは、もしかして近所で待ってたのかしら?

そこまで急いでる理由って、なんなのかしらね。あとで聞いてみよっと。



屋敷を出てしばらくすると魔導師が、

「そろそろお茶の時間でございますね。ご用意いたしましょう」

「用意……って、どこかに馬車を停めるの? 出発したばかりなんだけど」


このあたりは道も狭く、路肩で煮炊きなどすれば交通の邪魔になってしまう。


「そのような必要はございませんよ」

魔導師が壁に施された装飾を指でつんつんすると、いきなり壁の一部が開いて、茶器が現れた。


「わっ、なにこれ!」

「ふふ、大丈夫ですよ。ご安心を」


彼はカップを壁の凹みに置くと、また装飾を指でつんつんした。

すると、なんと壁の中からお茶が湧きだして、カップを満たしていったではないか。


「ま、魔法……ですか?」

「ん~……、魔法を利用した技術ですね。我が国では、どこの家にもある、ありふれた装備ですよ」


帝国じゃあ普通なんですか!

なにそれこわい。


「えええ……。そんなの飲んで大丈夫なんですか?」

思わず聞いてしまった。


「もちろん。茶葉は出発時に積んできたものですし、水も街の宿屋で普通に汲んできたものですから、どうぞご安心ください」


「はあ……」

中身は、大丈夫そうね。たぶん。


「この装置は、あらかじめ入れておいた茶葉に魔法で沸かしたお湯を注ぐだけの単純なものです」

「単純なもの、ですか」


魔法ヤバイ。なにこれ。

ひょっとして、私はとんでもない連中に売られてしまったのかもしれない……。


「お茶請けも必要ですね」


魔導師はそう言って、今度は別の装飾をつんつんした。

すると壁の一部がぱかっと開いて、お皿やお菓子が入った物入れが現れた。

これは、ただの収納みたい。

びくびくして損した。


「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。危険なものなど、何ひとつございませんから」


そう言いながら、魔導師はお皿の上にクッキーを並べて、私に差し出すのかと思いきや、こんどは扉をつんつんした。すると、扉の内側の板がぱたん、と倒れて、簡易的なテーブルになった。


「わ……べ、便利、ですね、これ」

この馬車、とにかく心臓に悪い。

もうこれ以上、驚かさないで欲しい。


「ええ。これがあれば、馬車の中で食事も出来ますし、忙しい時は仕事も出来るんですよ。移動時間もムダには出来ませんからね」

「そんな忙しい方が、こんな僻地まで来るなんて。お仕事、大丈夫ですか?」


ふふん、と笑う男。

「既に仕事は済ませてきました。ご心配頂き恐縮です」


揺れる馬車の中で書きものなんて、まともに出来るものか……と思ったけど、この馬車、あんまり揺れてないし、なんなら、すごい早いってことに気が付いた。

まあ、これも魔法なのかしら。

帝国の技術、恐るべし。

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