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第6話 せっかくなので領民を救いに行ってみた

「でも、今の私じゃ何もしてあげられないのよ……。行くだけガッカリさせてしまうじゃないの……」


そうなのだ。私にはもう彼らを救う術など何もない。

旅行気分の魔導師に付き合うのはごめんだわ。


「そんなことありませんよ、お嬢様」

「たまの遠出だからって観光したいだけなのでは?」


「ははは、まさか」

アイマスクの奥の目は、うろうろと泳いでいる。

図星じゃん。


「大丈夫ですよ。私がなんとかします」


「なんとかって。いい加減なこと言わないでよ。失望するのは私だけで充分。これ以上、期待させたくないわ」


「まあまあ、私にお任せ下さい。お嬢様」

「ホントに大丈夫なのかしら……」



というわけで現在位置から一番近い陳情先にやってきた私たち。

小さな町の入口ちかくに馬車を停めて外に出た。


「えー、最初のお困り事は……なんでしたっけお嬢様?」

「あれよ」


私は町を囲む壁を指差した。

大きな丸太をいくつも立てて作られた盗賊除けの壁。

ところが、一部分が壊れてしまっている。


「はあ、あそこが破損しているのですね」


「ええ。おかげで夜通し見張りを立てておかなければならなくなって、治安も労働効率も領主への信用もダダ下がりよ」


彼は、ふうんと言いながら穴の開いた壁へと歩き出した。

穴の前で立ち止まると、穴のあちらとこちらを眺めて、ふんふんと何かに納得した様子だった。


「すぐ近くの斜面から落ちて来た岩が、ここまで転がって壁を壊してしまったんですね。なるほどなるほど」


「あらー……、ほんとだわ。怖いわね」


彼は渋い顔をして腕組みをした。

「この壁を直すのは簡単です。しかし……」


「簡単なら直してちょうだいよ。魔法かなんかでパパっと」


「さすがにそこまで万能ではございませんよ。神ではないのですから」

「あ、そうなんだ……」


我が国じゃ魔導師なんて滅多にいないし、魔法使ってるとこだって見たことない人がほとんどだもの。そりゃあ、何が出来るかなんて分かりっこないわよね。


「というわけで、本日からしばらくはこの町に逗留いたしましょう。宿の準備などして参りますので、しばらくは馬車でおくつろぎください」


「わかったわ」


というわけで魔導師に促されて馬車に戻ると、彼はまたもや壁をつんつんして、お茶やお菓子を出したり、明かりをつけたり、なんと魔法で音楽を鳴らしはじめた。


「うっそ……誰もいないのに音が……」


「これは楽師の演奏を記録して、好きな時に何度でも聴けるようにしたものです。楽曲の種類もたくさんありますよ。ここを押すと変更可能です。ご自由にお楽しみ下さいませ。それでは失礼します」


「はあ……いってらっしゃい……」


唖然とする私を残し、彼はそそくさと立ち去った。


「帝国の魔法ヤバイ……ヤバイ……」


万能じゃないなんて言って、やっぱ魔法って何でも出来るじゃないのよ。ねえ?


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