「でも、今の私じゃ何もしてあげられないのよ……。行くだけガッカリさせてしまうじゃないの……」
そうなのだ。私にはもう彼らを救う術など何もない。
旅行気分の魔導師に付き合うのはごめんだわ。
「そんなことありませんよ、お嬢様」
「たまの遠出だからって観光したいだけなのでは?」
「ははは、まさか」
アイマスクの奥の目は、うろうろと泳いでいる。
図星じゃん。
「大丈夫ですよ。私がなんとかします」
「なんとかって。いい加減なこと言わないでよ。失望するのは私だけで充分。これ以上、期待させたくないわ」
「まあまあ、私にお任せ下さい。お嬢様」
「ホントに大丈夫なのかしら……」
というわけで現在位置から一番近い陳情先にやってきた私たち。
小さな町の入口ちかくに馬車を停めて外に出た。
「えー、最初のお困り事は……なんでしたっけお嬢様?」
「あれよ」
私は町を囲む壁を指差した。
大きな丸太をいくつも立てて作られた盗賊除けの壁。
ところが、一部分が壊れてしまっている。
「はあ、あそこが破損しているのですね」
「ええ。おかげで夜通し見張りを立てておかなければならなくなって、治安も労働効率も領主への信用もダダ下がりよ」
彼は、ふうんと言いながら穴の開いた壁へと歩き出した。
穴の前で立ち止まると、穴のあちらとこちらを眺めて、ふんふんと何かに納得した様子だった。
「すぐ近くの斜面から落ちて来た岩が、ここまで転がって壁を壊してしまったんですね。なるほどなるほど」
「あらー……、ほんとだわ。怖いわね」
彼は渋い顔をして腕組みをした。
「この壁を直すのは簡単です。しかし……」
「簡単なら直してちょうだいよ。魔法かなんかでパパっと」
「さすがにそこまで万能ではございませんよ。神ではないのですから」
「あ、そうなんだ……」
我が国じゃ魔導師なんて滅多にいないし、魔法使ってるとこだって見たことない人がほとんどだもの。そりゃあ、何が出来るかなんて分かりっこないわよね。
「というわけで、本日からしばらくはこの町に逗留いたしましょう。宿の準備などして参りますので、しばらくは馬車でおくつろぎください」
「わかったわ」
というわけで魔導師に促されて馬車に戻ると、彼はまたもや壁をつんつんして、お茶やお菓子を出したり、明かりをつけたり、なんと魔法で音楽を鳴らしはじめた。
「うっそ……誰もいないのに音が……」
「これは楽師の演奏を記録して、好きな時に何度でも聴けるようにしたものです。楽曲の種類もたくさんありますよ。ここを押すと変更可能です。ご自由にお楽しみ下さいませ。それでは失礼します」
「はあ……いってらっしゃい……」
唖然とする私を残し、彼はそそくさと立ち去った。
「帝国の魔法ヤバイ……ヤバイ……」
万能じゃないなんて言って、やっぱ魔法って何でも出来るじゃないのよ。ねえ?