まともな宿がなかったためか、結局町長さんのお宅に宿泊させてもらった翌朝、ヒマな私は現場まで散歩してみた。
やはりというか、領主の評判がすこぶる悪いせいか、私に投げられる領民の視線はとげとげしいもので、朝の清々しい気分は台無しになってしまった。
「ん? なにあれ……」
壊れた壁のあたりで、へんな生き物が沢山、もぞもぞと、うごめいている。
生き物、とは言ったものの、どちらかというと動くレンガのようにも見える。
「おはようございます、お嬢様。昨晩は良くお眠りになれましたか?」と魔導師。
彼が壁の向こう側から顔を出して、こちらに近寄ってきた。
倒れた壁材が刺さっていた地面がえぐれて、大穴を作っている。しかし彼は周り込むことなく、その穴の上を地面と同じように歩いてきた。
「う、浮いてるぅ!」
「ただの浮遊魔術ですよ。足が汚れなくて便利ですよ」
魔法、なんでも出来ると思ってたけど、ここまでとは……。
「お、おはよう。あれ、何? まさか……魔物?」
彼は背後をちらと見ると、くすりと笑って言った。
「作業用のゴーレム、魔法人形ですよ。これから人足を集めると時間がかかってしまいますから、そのへんの岩で作りました」
「へえ……」
もう何でもありだった。
町の人たちも気味悪そうに遠巻きにしているけど、壁を修理しに来たと護衛の騎士たちから説明されると、一応は納得して家に戻っていった。
私も土木工事なんか見物する趣味はないから、そそくさと町長の屋敷に戻ることにした。何か暇つぶしになるような物があればいいけど……。
日が暮れて夕食の時間になっても魔導師は屋敷に戻らず、修復工事にかかりっきりの様子。というわけで、食事は護衛騎士が運ぶらしい。
どのくらい工事が進んだのか、ちょっと気になったので私も騎士さんたちについていくことにした。
「ちょ! えええ……なにこれ……」
壁はぜんぜん直ってなかった。
というか、魔法人形たちは、壊れたとことは違う場所で作業をしていた。