翌朝、私と町長は騎士さんに呼ばれて、工事現場にやってきた。
「えーっと……、宰相閣下。これは一体……」
困惑する町長。
まあ、困惑しますよね。
「ちょっと、まだ壁は穴あいてるし、堀もそのまんまじゃないの。どうなってるのよ?」
文句を言われても澄まし顔を崩さない魔導師。
「お集り頂き恐悦至極に存じます。それでは、防護壁修復工事のハイライトを御覧くださいませ!」
魔導師はそう叫ぶと、魔法の杖を高く掲げた。
一斉に拍手をする騎士さんたち。
この演出、仕込みかしら。
ふと、堀の端っこの方で何かが瞬くと、ごおっという音と共に、堀の中を炎が濁流のように押し寄せてきた。
「ええ! ちょっと、燃えてる燃えてる! 何してるの!」
「あわわわわ」
魔法を見慣れていない私と町長はうろたえるばかり。
「ただいま、堀の壁面を焼き固める施工をしております。土をむき出しにしたままでは、風雨によりいずれ崩れてしまいます故」
「「ほう~」」
魔法って便利。マジ便利。
ひとしきり堀の内側を焼き終わると、魔導師は整列している魔法人形たちに向かって杖を振りかざし、号令をかけた。
「ゆけ!」
れんがのような魔法人形たちは、ぞろぞろと壊れた壁のあたりに歩いていき、塀のあとに沿って並びはじめた。
「ん? 何が始まるの?」
「何でしょうなあ……」
私と町長が不思議そうに眺めていると、魔法人形は次々と重なり合って、まさにレンガの壁のように穴を埋めていくではないか。
そう、まるでレンガだった魔法人形たちが、元の姿に戻っていくように、小さな城壁を造っていく……。
さっきまで魔導師にこき使われた挙句、自分を犠牲にして壁になってしまうの?
なんて可哀想な子たちなの……。
「ぐすっ……あなたたちのこと、忘れないわ……」
「何故泣いているのです? お嬢様」
「あんたねえ、よくこんな非道なこと平気で出来るわね! 魔法人形たちが可哀想だと思わないの?」
「は? 何を仰っているのか理解出来かねます。む、そろそろ完成しますよ」
魔法人形の壁が、両脇の木の壁と同じ高さになったところで、魔導師はもう一度、魔法の杖を振った。
杖の先についた宝玉が一瞬輝くと、魔法人形の壁のはじっこが木の壁を掴むように食い込んで、がっちりと一体化した。
「これで壁の仮復旧は完了致しました。当面は持つでしょうが、折を見て状況の改善をしたいと思います」
仕事をやりきってドヤ顔の魔導師だったけど、当然ながら私たちの疑問は晴れない。
「閣下……あの、申し上げにくいのですが……」
「む、今回の施工にご不満でもおありか、町長。遠慮なく仰って頂きたい」
町長は不安そうに私の顔を見てから、魔導師に向き直り、
「塀の方は全く不満はございません。ですが……」
「そのお堀は何なのよ! ちゃんと説明してよ」
魔導師は、ああ、と今さら気づいたような顔で言った。
「ご説明が必要でしたか。てっきりこちらの方がこの町の懸念事項だと認識していたのですが」
と、もったいぶった言いようと身振りで説明を始めた。