私と町長を前に、魔導師が講釈をはじめた。えらそうに。
「それではご説明申し上げます。そもそも、なぜこの壁が壊れたのか、という点に着目して頂きたい」
「それは、近くの崖からの落石……ですな」
「いかにも。ゆえに、また落石が発生すれば、せっかく修復した壁が再び破壊されてしまうでしょう」
「……確かに」
「まあ、そうよね」
「今回は、たまたま近くに寄った我々が修復することが出来たのでございますが、次回も同じように、とは参りますまい」
私と町長はうなづいた。
そうなのだ。
本当なら、今回の修復工事だって行われるはずじゃあなかったのだから。
「いずれは抜本的な改善を弄ずることになりましょうが、それがいつになるかはお約束が出来ない。ゆえに、問題の先送りをすることにした」
ん? 何を言ってるのか、ちょっとよくわからないわ。
「それがこのミゾなわけ?」
「いかにも。……まだお分かりになりませんか? お嬢様」
「お分かりになりませんね。さっさと説明しなさいよ。回りくどいのは嫌いよ」
「結果を焦るのは知性の欠如の現れにございますよ、お嬢様。物事、拙速を尊ぶ場面はあれど、政に携わる者として、あまり褒められる態度ではございませんな」
「悪かったわね! ていうか政なんて携わる機会はもうないでしょうが」
「それはどうでしょう」
「は?」
「話を続けさせて頂きますよ。この町の本当の懸案事項とは、あの崖です」
「崖、ねえ。でも崖なんて動かせないじゃない」
「いかにも。故に、一時的にでも落石を壁に接触させないために、わざと手前の堀に落としてやるのですよ」
「「なるほど~」」
お前たち、やっと理解したかと言いたげな顔で、魔導師は深いため息をついた。
「時間を掛ければ崖の問題を解消することは出来る。しかし、短時間で私ひとりが可能な範囲の対処はたかが知れている。ゆえに、町に襲い掛かる岩を手前の溝に落として難を逃れる方法にたどり着いた、という次第にございます。ご理解頂けましたかな」
うそ……。
私、ちっとも気づかなかったし、思いつきもしなかった。
でもこいつは、町に着いて一瞬でそのことを見抜いてしまったんだわ。
なんか、くやしい……。
私が護ってあげたかった領民なのに……。
私よりも上手に救うなんて……。
ぐぐぐぐぐぐ……。
「じゃ、じゃあ、この堀だけども、水が貯まったら危ないでしょ。人が落ちるかもしれないし、どーする気よ?」
ああもう、これじゃあただのインネンだわ。
みっともない、でもくやしい。
壁を修復した魔導師に難癖をつける私の横で、町長がアタフタしている。
でもそんなの知ったこっちゃないわよ。
魔導師は、思いっきり見下したような笑みを浮かべて言ったの。
「無論、対策済ですよ、お嬢様」