「な、なによ、対策って」
魔導師はニヤリと笑って、
「皆様、堀の端から2メーターほど離れてご覧ください」
と言うと、魔法の杖を壁際に積まれた焚き木の山に向けた。
すると、焚き木の山はフワっと少し浮いてから、お行儀よく一本づつ並んで、堀の端に沿って動いていった。
よく見ると、焚き木というには倍くらいの長さがあって、片側の先が少し削ってあった。暖炉には長いから、きっとこの町のかまどに合うように削られているのね。
「ま、かわいらしい」
焚き木たちの行列は、ぴょこ、ぴょこって空中を飛び跳ねながら進んでいく。
魔法でうごくものって、ちょっとカワイイわよね。
焚き木のペットって珍しいし一本もらっていこうかしら。
そうこうするうちに、焚き木たちは50センチくらいの間隔で並ぶと、その場ですうっと、家の二階くらいの高さに浮かび上がった。
「まあ……」
この子たちに火が点いていたら、きっと綺麗でしょうに……。
なんて乙女な想像をしていた私の前で、焚き木たちは一斉に、ものすごい速さで地面に突き刺さった。
「ぎゃっ!」
びっくりして、ついはしたない声を上げてしまったわ。
「ははは、驚かせてしまいましたか。大丈夫、もうこれで作業はおしまいですよ」
「もう、最初から言っておいて頂戴。いきなり木が地面に突き刺さるから、びっくりしたじゃないの」
「いや、そこまで驚かれるとは思わなかった故。で、町長」
「なんでございましょう」
「この杭に綱を張って、町民が落ちないようにして頂きたい。その程度ならお任せできますよね?」
「もちろんでございますよ」
「綱と綱の間には、目印として派手な色のリボンをぶら下げると視認性が向上して落下事故が各段に減るでしょう」
「おお、確かに。賢者様のお知恵、有難うございます。確実に、手配致します」
彼と町長のやりとりを呆然と見ていた私に向き直った彼は、
「これが私が用意した対策ですが……何か問題でもございましたでしょうか、お嬢様?」
とドヤ顔で言った。
む、む、むかつく~~~~~~~!
でも、でも確かに。
これが、短時間で彼一人で出来る最大限かつ最良の解決策であることは明白だった。問題は完全ではないけど、一応は綺麗に解決したのだった。
私が見落とした、この町の本当の問題まで応急処置をするなんて。
こんな人がいたら、うちの領地はずっとうまく経営できてて、領民も幸せになって、おじい様も喜ばせることが出来たのに……。
私だけじゃ、おじい様みたいには出来なかった。
なんとかしたかったけど、何も出来ないまんま、追い出されちゃった。
なのに、私よりも、ずっとずっと、こんなに鮮やかに、しかも一人で困りごとを解決できる人間が存在するなんて……。
その有り得ない人間が、私の、いいえ、領民たちの困りごとを解決する手助けをしてくれるだなんて……。
いっそのこと、ウチの領地、帝国のものになっちゃえばいいのに。
そしたら、ずっとみんなを幸せにしてあげられる。
たぶん。
「……み、見事、だわ。褒めてあげる」
「恐悦至極にございます、お嬢様」
彼はうやうやしく私に礼をした。
超わざとらしく。
き~~~~~っ!
くくくく、くやしいいい!
屈辱だわ!
……でも。
これが、身の程を知る、ってことなのね、きっと。
そうでしょう、おじい様。