というわけで、この町でやることが終わったので、そそくさと馬車に乗って次の町への移動を開始した。
「お昼頂いてからでも良かったんじゃないの~?」
「食事なら移動中にでも可能でございましょう。それに車中泊がお望みとでも?」
「それはイヤ」
ヒマを持て余しているのか急いでいるのか、よく分からない男だわ。
というわけで、私たちは町長さんちのメイドさんからもらったお弁当を食べているところ。野菜たっぷりのサンドイッチって、あまり食べたことないから新鮮。どうしてウチでは出てこなかったのかしら。こんなにおいしいのに……。
「それはそうと、騎士さんたちの食事はどうするの?」
「不要ですが」
「え? いやいや、彼らだって何か食べないとお仕事に支障が出ちゃうでしょ」
「ですから食事は不要です」
「なんてヒドイ主人なの? それって虐待よ!」
「あー……あの、ですね」
「なによ極悪魔導師」
「あんまりな言われようでございます、お嬢様……」
魔導師はこめかみに手を当てて俯いた。
そこまでショックだったの? まさか。
「とにかく彼らにも何か食べさせてあげて」
「はあ……。では、当人たちに聞いてもらえますか」
「いいわよ。いかにひどい扱いを受けているか、聞き出してあげるから」
馬車を路肩に停めると、私と魔導師は車外に降りて、馬車の前にいる騎士に近寄った。騎士は馬から降りて、魔導師にかしずいた。
「何かありましたか、猊下」
「お嬢様がお前達に聞きたいことがある、と仰せだ」
「御意」
「あの、あなたたち、ちゃんとごはん食べさせてもらえてる?」
「食事、でございますか。いいえ、我々には不要でございますが……」
「ほらね」
「ほらね、じゃないわよ! ……ねえ、ほんとに、大丈夫なの? こいつに虐待されてるんじゃなくって?」
困り顔の騎士さんと、極悪魔導師がお互いの顔を見合わせた。
「へい……猊下、お嬢様にちゃんとご説明をされておられないので?」
「面倒だ」
「そういう所、ホントに良くない、でございますよ! お嬢様が心配されておられるではありませんか。はー…………。」
騎士さんは大きなため息をつくと、話を続けた。
「我々は猊下に作られた魔法人形、ホムンクルスでございます。そのため、人のように食事を取らずとも生きておられるのでございます」
「ええええ! だって、ぜ、ぜんぜん、人にしか見えないじゃない! うそでしょ……」
「まあ、我々の姿の元となった人物はおりますよ。そのうつし身のようなものございますね。ちなみに、馬たちもホムンクルスでございます。彼らは疲れ知らずで、よく走ってくれる心強い仲間です」
「へ、へえ…………」
魔法ヤバイ。帝国ヤバイ。もうなんかヤバイ。
言われてみれば、馬たちは体にぴったりした鎧みたいので覆われていて、たしかに造り物っぽい気もする。道端の草も食べてないし。
横で不貞腐れていた魔導師が、さらに苦々しそうな顔で、
「人間は信用ならん」と吐き捨てるように言った。
「どういうことよ」
「言葉どおり」
「うーん……。よほどひどい目に遭ったのね……」
「まあ、色々と」
魔導師は腕組みをして俯き、つま先をトントンさせている。
イライラを隠す気もないようね。
「へ、猊下はその……御幼少のみぎりより、つねに暗殺の危機にあられまして、ご親族にも何度も裏切られ、そのため魔導を極められた後に我々のようなホムンクルスをお造りになられたのです。絶対に裏切らない兵士として」
「なるほど……。じゃあ彼は私も信用してないのかしら」
と言うと、魔導師は急に顔を上げ、必死の形相で私の肩を掴んで叫んだの。
「ちがう! エリィはちがう! キミだけは!」
「いたい! 離して!」
彼は、はっとして私の肩から手を離した。
そして、
「ご、ごめん……痛い思いをさせて……」
心底しょんぼりした顔で言った。
「ねえ、貴方、私に隠し事してるんじゃないの? いい加減ボロも出まくってるし白状した方がラクになれるわよ?」
「何も……ございませんよ、お嬢様」
魔導師は消え入りそうな声でつぶやいた。