魔導師は素直に白状することもなく、さっさと馬車に乗り込んでしまった。
その場に残された私と騎士さんたち。
事情を知っている彼らは、苦笑い。きっと口止めされてるのでしょう。
「えーっと、多分事情分かってると思うのだけど、誰か教えてくれないかしら」
困った様子できょろきょろとお互いを見る騎士たち。
そのうちの一人(多分リーダーっぽい人)が、意を決したように口を開いた。
「お嬢様、私の顔に見覚えはございませんでしょうか」
「……へ?」
誰だっけ。
「それがヒントです」
やっぱり直接言うわけにはいかないようね。
ならば、全力で思い出すしかないわ。
「う~んう~ん……」
「ほら、昔、かぼちゃを……」
「かぼちゃ?」
「とか栗とか」
「栗……ねえ」
「とか、桃を……」
「も、桃?」
「ええと、その、ほら、川に、ですね」
「ううう~~、そのヒントわかりづらすぎるわよ!」
「も、申し訳ございません……」
連想クイズ、ヘタクソマンか!
なんか伝えるの苦手らしい。
とにかく、彼のモデルになった人が、私の過去と何か関係があるのかもしれない。
いっしょうけんめい彼のくれたヒントを、全力で私の記憶から探してみる。
ううう……。
なかなか見つからない。
なんか頭が煮えてきたわ……。
「つまりこういうことかしら。貴方のモデルになった人と、あの男は、私が子供の頃に出会っていた、と」
騎士さんは、満面の笑みで頭上に丸を作った。
口では肯定できないっぽい。
「えっと……。貴方の御主人と私は、幼なじ……み?」
騎士さんは白く光る歯を見せて微笑んだ。
丸、のようだ。
とはいえ、そんな子しらないし。
うーん……。
「えっと、一緒にいたのが短期間、かな?」
ピンポン! 正解らしい。
なるほど。それで記憶にないってことなのか。
「それじゃあ――」
「そこまでだ!」
馬車の窓から顔を出した魔導師が叫ぶ。
やっぱり知られたくないらしい。
なら最初からキッチリとお芝居をやり通して欲しかったわね。
あんな怪しい素振りをされたら、誰だってほじくりだして天日に晒してやりたくなるじゃないの。
魔導師に怒られた騎士たちは、おのおのの馬に戻っていった。
彼は私の幼馴染。だとすると、この旅は彼にとっての帰郷で、早く帰りたくはないってことの理由にはなるわね。
実際、相当な権力を持っているから、道草食っていても大丈夫なんだわ。だって実質、帝国のナンバーツーってことなのだから。
でもまだ謎は残っているわ。
時折騎士たちが彼のことを『猊下』ではなく『陛下』と何度も呼び間違えている。
高位の魔導師であるのは昨日の町での魔法で証明済になるけれど、やっぱり身分を偽っているカンジがする。
でも政治家なら『閣下』呼びでもいいと思うのだけど、『猊下』呼びって普通は聖職者とかに使うじゃない? でも帝国じゃあきっと違うのかもしれないし……。
ああ、よくわからない。
では『陛下』とは。
陛下。
帝国で陛下と呼ばれるのは……。
『皇帝』よね。
いやいや。
そんな人が私の幼馴染なわけないじゃない。
そもそも、ここ帝国じゃないし。
でも、騎士たちは、ちょいちょい陛下って呼んじゃってるみたいだし……。
う~~~ん……。
ひらめいた!
「あ! わかった! 貴方、皇帝陛下の影武者ね!?」
「は?!」
図星を刺された魔導師は、窓から落っこちそうになっていた。
やっぱこれが正解ね!