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第13話 怪しいのは魔導師だけじゃなく2

魔導師は素直に白状することもなく、さっさと馬車に乗り込んでしまった。

その場に残された私と騎士さんたち。

事情を知っている彼らは、苦笑い。きっと口止めされてるのでしょう。


「えーっと、多分事情分かってると思うのだけど、誰か教えてくれないかしら」


困った様子できょろきょろとお互いを見る騎士たち。

そのうちの一人(多分リーダーっぽい人)が、意を決したように口を開いた。


「お嬢様、私の顔に見覚えはございませんでしょうか」

「……へ?」

誰だっけ。

「それがヒントです」


やっぱり直接言うわけにはいかないようね。

ならば、全力で思い出すしかないわ。


「う~んう~ん……」

「ほら、昔、かぼちゃを……」

「かぼちゃ?」

「とか栗とか」

「栗……ねえ」

「とか、桃を……」

「も、桃?」

「ええと、その、ほら、川に、ですね」

「ううう~~、そのヒントわかりづらすぎるわよ!」

「も、申し訳ございません……」


連想クイズ、ヘタクソマンか!

なんか伝えるの苦手らしい。

とにかく、彼のモデルになった人が、私の過去と何か関係があるのかもしれない。

いっしょうけんめい彼のくれたヒントを、全力で私の記憶から探してみる。


ううう……。

なかなか見つからない。

なんか頭が煮えてきたわ……。


「つまりこういうことかしら。貴方のモデルになった人と、あの男は、私が子供の頃に出会っていた、と」


騎士さんは、満面の笑みで頭上に丸を作った。

口では肯定できないっぽい。


「えっと……。貴方の御主人と私は、幼なじ……み?」


騎士さんは白く光る歯を見せて微笑んだ。

丸、のようだ。


とはいえ、そんな子しらないし。

うーん……。


「えっと、一緒にいたのが短期間、かな?」


ピンポン! 正解らしい。

なるほど。それで記憶にないってことなのか。


「それじゃあ――」

「そこまでだ!」


馬車の窓から顔を出した魔導師が叫ぶ。

やっぱり知られたくないらしい。

なら最初からキッチリとお芝居をやり通して欲しかったわね。

あんな怪しい素振りをされたら、誰だってほじくりだして天日に晒してやりたくなるじゃないの。


魔導師に怒られた騎士たちは、おのおのの馬に戻っていった。


彼は私の幼馴染。だとすると、この旅は彼にとっての帰郷で、早く帰りたくはないってことの理由にはなるわね。


実際、相当な権力を持っているから、道草食っていても大丈夫なんだわ。だって実質、帝国のナンバーツーってことなのだから。


でもまだ謎は残っているわ。


時折騎士たちが彼のことを『猊下』ではなく『陛下』と何度も呼び間違えている。

高位の魔導師であるのは昨日の町での魔法で証明済になるけれど、やっぱり身分を偽っているカンジがする。


でも政治家なら『閣下』呼びでもいいと思うのだけど、『猊下』呼びって普通は聖職者とかに使うじゃない? でも帝国じゃあきっと違うのかもしれないし……。

ああ、よくわからない。


では『陛下』とは。


陛下。

帝国で陛下と呼ばれるのは……。

『皇帝』よね。


いやいや。

そんな人が私の幼馴染なわけないじゃない。

そもそも、ここ帝国じゃないし。


でも、騎士たちは、ちょいちょい陛下って呼んじゃってるみたいだし……。


う~~~ん……。


ひらめいた!


「あ! わかった! 貴方、皇帝陛下の影武者ね!?」

「は?!」


図星を刺された魔導師は、窓から落っこちそうになっていた。

やっぱこれが正解ね!

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