「そうよ! 影武者なら幼馴染でもおかしくないわ。きっと皇帝陛下と似てるから任命されたのね! それならそうと言ってくれればいいのに。どうせ陛下のお妃になるんだから内部事情くらい教えておいてもいいでしょ」
嬉々として持論を展開する私を呆然と見てる魔導師こと幼馴染。
「お嬢様、まだお食事が終わっていませんよ。こちらにお戻りください」
「ちゃんと答えてくれないの? ま、今はいいけど」
確かに、あんなおいしいサンドイッチ、完食しなくちゃもったいない。
大人しく馬車に戻ると、彼は渋い顔で、もそもそとサンドイッチを食べている。
「そんな不味そうな顔で食べたら、サンドイッチがかわいそうよ」
「誰のせいで」
さらにブスーっとした顔になってしまった彼。
まあ、正体が半分ほど分かったところで、私がこの男のご機嫌を取ってやる必要などないんだけど。
というわけで、私は食事の続きを始めた。
ああ、やっぱりおいしいわねぇ。
帝国に着いたら、野菜たっぷりサンドイッチ、作ってもらえるかしら。きっと大丈夫よね。
食後のお茶を楽しんでいると、彼が急にかしこまって話し始めた。
「あの……お嬢様」
「なにかしら」
「私の正体については、どうぞご内密に。陛下の御身にも関わります故……」
「やっぱり影武者なのね」
「……。陛下はお嬢様が私と既知の関係であることはご存じありません。ですので、そちらの方もどうぞ……」
「既知といったって、まだ貴方のこと思い出せてないけれど……まあ、いいわ。黙っておいてあげる。でも、それってそんなに都合が悪いこと?」
「お気を煩わせるような事は少しでも排除するのが私の務めにございます故」
「そう、なのね」
「……」
何か色々と言いにくいことがある様子。
お国の事情について突っ込んだことはまだ教えてはもらえないみたいね。
それなら。
「えっと、じゃあ、子供の頃のこと教えて。それならいいでしょ?」
「ううむ……」
「ねえ」
「………………エリィが俺のこと思い出してくれないなら、言っても仕方ないだろ……」
「ごめんなさい」
そうだ、もしかしたら。
私は彼のアイマスクに手をかけた。
「素顔を見たら、思い出せるかもよ?」
彼はこくり、と頷いて、私にされるがままになった。
私が彼のアイマスクを外すと、そこには精悍な青年の顔が現れた。
「これが、皇帝陛下の顔、ってことなのね」
彼は、大きなため息をついて、
「やっぱ無理かぁ……。そりゃそうだよな。ここまで成長してたら面影なんて……」
「まだあきらめるのは早いわ。さっき騎士さんが言ってたヒント、もうちょっと詳しく教えてもらえたら思い出せるかもしれないわよ」
「そう、だね……」
貴方は、私に思い出して欲しかったの?
それとも隠し通す気だったの?
どっちなのよ……。