「人工精霊とは文字通り、人為的に作られた精霊のことです。……あー、精霊って分かりますか? お嬢様」
「火とか水とか風とか木とか……いうやつだっけ」
「ざっくりな認識ですが、まあそういうのです」
「よかった。合ってた」
間違ってたらまたバカにされると思って、ちょっとヒヤヒヤしちゃった。
それにしても、幼馴染だったんなら、もうちょっと手心というものがあってもよかったんじゃなかろうか。こう、ね。もうちょっと……。
「人工精霊はいくつかの用途がありますが、今回使用したものは、調査用に使役している精霊です」
「調査……用?」
「そうです。飛行することが可能なので、空からの情報も得られますし、属性によっては、地質調査なども可能です」
「ちしつぅ?」
「その土地にどんなものがあるのかが分かります。たとえば水源とか、特定の鉱物資源とか、あるいは地下の空洞などの地形だとか」
「じゃあこの地図も、その……人工精霊、を使って作ったの?」
「ええ。ものすごく簡単に言いますと、見たものを記録する能力を持つ人工精霊を使い、それを紙に書き写して作ります」
「すごーい。本当に空から見て作ったのね」
「それが一番確かですから」
「たしかに」
魔法ヤバイ。というか精霊つくっちゃうってどういう技術なの?
マジわかんない。帝国ヤバイ。
「あー……そろそろ一匹目が帰ってきたようですね」
彼は窓を少し開けて、人工精霊を車内に入れてやった。
「へ~。精霊ってこんな格好なのね。初めて見たわ」
「形はある程度は術者の意図で変えられますから、いろいろな精霊がおりますね」
「じゃあこの子の形は貴方が考えたの?」
「いえ、そういうのは得意じゃないので、何も手を加えていないプレーンな姿です」
「ふうん……」
目の前の人工精霊は、手のひらより少し小さいくらいのサイズで、鳥と蝶を足して割ったような形だけど、全体的に水色で、ところどころ透けていて、すごく綺麗だけどなんだか儚いかんじにも見える。
「もしかして、これは水の精霊?」
「ご名答。水の属性を持っています。そのため、水場を探したり、地下水脈を見つけたり、空模様が怪しい場合には雨の予報もある程度は可能です」
「とりあえず水系のお仕事をする子なのね」
「ええ。ちょっと失礼……」
彼は人工精霊の声に耳を傾け、それから不思議な言語で何かを語りかけ、小瓶にその子をやさしく戻してやった。
小瓶はきっとこの子のおうちなのでしょう。
「おつかれさま、精霊さん」
「労いのお言葉ありがとうございます。精霊も喜んでいますよ」
「それはよかったわ。それで、何か分かった?」
「それが、当初の予定とは異なる方法で解消することになりそうで」
「えっと、それって大変なのかしら?」
「他の精霊の情報次第となりますね。今はまだはっきりとは……」
「そう」
仕事が出来る男は、あまり不確実なことは言いたくないっぽい。
失敗がこわいのか責任取るのがイヤなのか何なのか。
だからかえってそういう物言いが私には面倒臭く聞こえるし、イライラもする。
だいたいOKならそれでいいのに、少しでもデメリットとか失敗する可能性があると、くどくど何か言い出すから、どのくらいイケるのか分かりにくいのよね。
もうちょっとズバっと言えないのかしらねえ。
なんて考えていたら、二匹目の人工精霊が戻ってきたみたい。
窓をコンコン叩いてるわ。
「はいはい、今入れてあげますからね~」
私は馬車の窓を少しだけ開けてやった。