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第18話 水のお悩み解決は案外カンタンなはずだった3

窓の開口部に手を差し出すと、人工精霊はそれをスッと避けて魔導師の肩にひらりと着地した。


「せっかく開けてあげたのにぃ。ちょっとくらい手に乗ってくれたっていいじゃない」

「申し訳ございません。この手合いは主人以外を認識出来ませぬ故、どうぞご容赦を、お嬢様」

「まあいいけど……」


面白くなさそうな顔してる私に、苦笑いして見せる魔導師。

まあしょうがないわよね。

いいもん、こんど私にも作ってもらうんだから。


「欲しいですか?」

「欲しいけど……そういう見透かしたような物言い、好きじゃない」

「申し訳ございません、お嬢様」


彼、ちょっとシュンとしちゃった。

せっかく私にも作ってくれるって言おうとしたのかも、なのに。

多分私が悪いよね、これ。


「こっちこそ、ごめん……」

「お気になさらず」


彼はぼそりと言うと、二匹目の人工精霊とお話しを始めた。

すごい真剣な顔で、人工精霊の声をうんうん、と聞いている。

きっと重要な情報を持って帰ってきたのかもしれないわね。


彼が人工精霊を小瓶に戻していると、間もなく三匹目も帰ってきた。

同じように話を聞いて小瓶に戻すと、三つの小瓶をテーブルに並べて魔法の杖をちょこっと振った。


「なにしてるの?」

「エサやりです。こうして、仕事で減ったぶんの魔力を杖から補充してやっているのです」

「へえ~……。これが、この子らのごはんなのね」


魔力をもらった人工精霊たちは、小瓶の中で気持ちよさそうに伸びをしたり、丸まったりして、くつろいでいる。


「おつかれさま。ゆっくり休んでね……」


私は小瓶の外から、人工精霊たちをなでなでした。

ご主人じゃないから、うれしくはないかもしれないけれど。


「ほう。意外だな。私以外の人間に懐くなんて」

「え? そうなの? 特に変わった様子はなさそうだけど……」


彼は顎に指を添えて小首を傾げると、

「ふうむ……。先日の作業用ゴーレムの時といい、お嬢様は造られし命への慈しみが豊かな方のようだ」


「う~ん、ただかわいいなって思っただけよ?」

「普通の人間は、魔法生物を気味悪いと感じるもの。たとえ見た目が愛らしかったとしても……でございます」

「そんなものなのかしらねぇ」

「そういえば、お嬢様はあまりご友人がおられず、いつもお部屋のお人形やぬいぐるみたちと遊んでいたような」

「ま! お、おなじ年頃の子供が近くにいなかっただけよ! 失礼な」

「ふふふ。まあ、それを心配したお母上が、知人の預かった子供……つまり私を遊び相手として屋敷に時折招いて下さったのですがね」

「ふうん。そういういきさつだったのね」

「その時、私が連れていた魔法人形がこいつ、です。……見覚えはありませんか」


彼は懐から、小さな真四角の箱を取り出してテーブルの上に置いた。

すると、箱の底からにょきっとカニみたいな足が四本生え、箱の側面に目と思しき窓が開いて、もぞもぞと動き出した。


「お嬢様にご挨拶だ、サイ」


それが箱の名前なのか、ちょこちょこと足を器用に動かして私の方に向きを変えると、小鳥のさえずりのような声を出しながら、ぺこりと頭……いや体? を下げた。


「サイちゃん、というのね。初めまして。よろしくね」

私は人差し指をサイに差し出した。


すると、サイはすこし困ったように体を震わせ、主人の方をちらと見ると、おずおずと、私の指を足の先でちょこんとつついた。


「貴女が魔法生物に抵抗が少ないのは、いつも連れていたこいつのせいだと思っていたのですが……やはり覚えておられませんでしたか」


「ごめんなさい」


「いえ、たとえそうだとしても、魔法生物への愛情が今でもおありなのは、どこかでこいつのことを覚えていることの証左。サイ、良かったな。お嬢様はお前を覚えておられたぞ」


キュキュ、っと嬉しそうに鳴くサイ。


「ごめんなさいね、サイちゃん。きっと思い出せるから、待っててね」


サイはこくりとうなづくと、私の手を伝って腕の上を歩き、肩に乗っかった。


「お嬢様にサイを差し上げましょう。さきほど人工精霊が欲しい、とおっしゃっていたでしょう」

「でも、この子は貴方が子供の頃からのお友達でしょう? 頂けないわ」

「お嬢様の友達でもあったのですが。それに、当人がそう望んでいる」


サイが角ばった体で私のほっぺにスリスリしてる。


「まあ、当人がいいのなら……。ありがとう、ジェックス、サイ」


「サイをよろしくお願いします。それで、こいつのエサは……ええと、このペンダントから与えてください。数年分はもつくらいの魔力が込められています。もし切れたら補充しますので私におっしゃって下さい」


宰相兼宮廷魔導師兼幼馴染兼魔法人形の飼い主は、上着のポケットから水晶のペンダントを取り出し、私に手渡した。


「いつごはんをあげればいいの?」

「腹が減ったら自分で要求しますが、いずれ落ち着いたら空き箱などで寝床を用意して、そこに置いておけば勝手に喰らいますよ」

「まるで野良猫ね」

「似たようなものですよ。中身は猫だから当たらずとも遠からず、ですな」

「猫をモデルに作られているのね。そのわりにずいぶん四角いんだけど……」

「魂入れをしたのは師匠だけど、外側は自分で作りました。子供の頃ですから、そんなものしか作れず……」

「いいじゃない。これはこれで可愛いし」


サイが嬉しそうに鳴く。

ニャ~、とは言わないのがアレだけど。

とにかく、お世話の手間の少ないペットが出来て、この旅も少しは楽しくなりそうだわ。

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