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第20話 水のお悩み解決は案外カンタンなはずだった5

魔導師の言うには、まず最初に陳情書と地図を元に、プランAを作った。だけど、人工精霊の調査情報と現地視察の結果、プランAに支障があることが分かった。


地図では地形の高低差が分からずに計画してしまったのだけど、実際には水源から水を流すことが出来ないんだって。

それじゃあ計画変更するのは仕方ないわよね。領民を救えないなら意味ないもの。


「それでプランBの方は?」

「これは空からの調査で判明したのですが、通常あまり見えない場所に隠れた滝がありまして、そちらを利用します」

「あ……でも、地図だって空から見て作ったのよね? その時は分からなかったの?」

「鋭いですね、お嬢様。いかにも。地図を作成する際に使用した人工精霊は水の属性を持っておらず、上から見えない場所の水源に気づけなかったのです」

「なるほど~。だから、調査には必要な属性を持った人工精霊が必要なのね?」

「左様でございます。この精霊をいかに使いこなすかが、仕事の精度と速さに繋がるという訳です」

「だから宰相だけど魔導師、ってことなのね。両方ないと大国の政治が回らないと」


魔導師は、ちょっと得意そうな顔で、

「兼任しているのは私くらいのもので。通常は官吏と魔導師や精霊使いは別々の職業ですよ」


「ふうん。貴方、人と仕事するの苦手だから一人で全部やってるんでしょ」


ぎくり。

魔導師はばつが悪そうな顔をして、

「その方が早いだけですよ。仕事は山ほどあるのだから、早いは正義でしょうに」


「まあ確かに。それで、その滝をどうするの? けっこう遠いようだけど」


「これは図面の上で説明しにくいのですが」

と断りを入れると、彼は地図の上に指を這わせた。


「滝のある渓谷はところどころ、氷河に削られた跡があり、多少の手間でそこを削ることが出来ます。そして町の近くの沼に水を誘導し、さらに町中へと水路を造れば問題は解決できましょう」


「え~、けっこう大変じゃない? 水路だってすぐに出来るものでもなさそうだけど」


「あの町には、先代様の頃に作りかけた用水路がありまして、まあ十年ほど放置されているのですが、それに手を加えれば当面は実用に足るものになりましょう。長く使うには、やはりきちんと工事をするべきですが……」


「今すぐ水が要るんだから先のことは後で考えればいいわよ」

「はあ、それお嬢様の悪い癖ですよ」

「何がよ」

「後先考えないところです」

「すぐ問題が解決できればいいじゃない。何が悪いのよ」


「いいですか。治政というのは短期と長期の両方で考えるべきものなのです。場当たり的な事を繰り返した結果、後で高くついたり、取返しのつかない事になったりする場合もあるのです。為政者は全体を、長い時間軸でもって考えなければなりません。先代様もそうなさっておられたはず……」


「うう……。そうね。確かにおじい様は、先々のことまで考えていたわね。ああ~……でもどうして息子の教育に失敗しちゃってるのよ~~~」

「えてして二世とはそういうもの。どこの家も似たような問題を抱えているようで」


やっぱそういうものなのね。

私が男だったら、おじい様の元で仕事を教わったり出来たかもしれないのに。

なかなか上手くいかないものね~。

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