目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第21話 水のお悩み解決は案外カンタンなはずだった6

ホムンクルスの馬は、とんでもない急こう配でもスイスイと昇っていけるもののようで、目的の滝にむけ馬車は険しい山肌を走っている。

おかげで私たちの乗っている車体の方はひどく傾いて、まるで缶の中でかき混ぜられる残り少ないクッキーのような状態だった。


「シートベルトをしてください、お嬢様」

魔導師は椅子の背もたれと座面の隙間から、何か帯のようなものを引っ張りだして、先についてる金具をカチっと合わせていた。


「シートベルトってなに! きゃああ~~」

「危ない。こちら側に来て、座って、エリィ」

「ひえええ、うごけない~」


魔導師が私の手首を掴むと、ぐっと引っ張って自分の隣に私を座らせた。


「ベルトしめるよ」


と、彼は私の腰に手を回すと、椅子から帯を引っ張り出してカチリとくっつけた。

どうやらこれは体を椅子に固定するための道具らしい。


「ふう……たすかったわ」

「やれやれ」

「っていうか、こうなること分かってたんなら先に言ってくれない?」

「あ。……申し訳ございません、お嬢様」

「いいわよもう。ありがと、ジェックス」

「……いえ」


ぷいと横を向いた彼の耳たぶが、なんだか赤い。

山登りで馬車がめっちゃ揺れてるせいかしら。私も怖かったからドキドキしてるし。

そういえば騎士さんたちは大丈夫なのかしら……。


外の彼らが心配になって窓から覗いてみたら、まるで山羊のように馬がひょいひょいと荒れた山肌を昇っていく。車体がついていないぶん、身軽なのね。


「ホムンクルスが心配で?」

「だってこんな危ないとこ、馬で昇るなんて心配になるでしょう」

「連中なら体ひとつででも昇りきるのは容易い。ホムンクルスはオリジナルの何倍も丈夫で強いのです」

「……みたいね」


馬が駆け上がっていくのを見ていたら、ふと山のふもとに人影が見えた気がした。


「このあたりに水を流すのよね?」

「その予定ですが」

「でも人がいるけど」

「まさか。無人の場所を選んでルートを決めたのですよ、何かの見間違いでは」

「これだけ揺れてるし、まあ、そうかもね……」


私は少し気がかりだったけど、すぐ忘れることにした。

彼の言うことなら間違いないはずだから。


でもこの判断が後でとんでもないことを招くとは、思いもよらなかった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?