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第22話 水のお悩み解決は案外カンタンなはずだった7

滝に到着すると、魔導師は地面に地図を広げ、その上に六分儀のような道具をのせて、あれこれいじっている。


「なにするの?」

「山に穴を開けるのです」

「山! そんな、すぐ出来るわけ――」

「見ていてください」


魔導師は杖を掲げると、すっと手を柄から離した。杖はそのまま宙に浮いている。

彼は杖の宝石に両手のひらをかざし、なにやら呪文を唱えはじめた。


50も数え終えるころ、宝石が眩しく輝き、岩肌に向かって光の線が飛び出した。


「うそ……」


光の線は、じゅぅっと岩を焼き、山肌をえぐって向こう側へ飛び出して消えた。

その穴から滝つぼに溜まっていた水が流れ出していく。


「そう多くはないですが、大きな穴を開けてしまうと山そのものが崩れてしまいます故」

「というか、何がなにやら……」

「じゃあ急ぎますよ。まだ穴を開けないといけない場所がある」


彼は慌ただしく地図などを片付け、私を馬車に押し込んでから自分も乗り込んだ。


「あれ、魔法だよね」


「高熱の光線を放つ魔法ですね。基本的には軍事用に開発されたものですが、このように土木工事で高い効果を発揮します。人力で掘削するよりも遥かに早く、そして安全です。ここを開けただけでは町まで届きませんので、次々と穴を開けていきますよ」


次々と、なんて言ってるけど、さっきの魔法は大技だったのか、彼はちょっと疲れているように見えた。大丈夫かな……。



馬車で山を降りると、魔導師はちょこちょこと穴やら溝やらを魔法で掘っていった。急いでいるのは、遅くなると滝からの水に追いつかれてしまうから、らしい。


魔法で掘る利点として、土を掘っただけだと水で崩れてしまうけど、高熱で焼きながら掘るから穴自体が水に強くなるんだとか。まあ、便利ね。


そして、三か所の水路に接続するための溝を掘ろうとしたとき、町の人が慌てた様子でやってきた。


「どなたか、子供たちを見掛けませんでしたか?」

「どうしたの?」

「子供たちが度胸試しに、と山の方へ朝から出かけてしまったんです。危ないから行ってはいけないってあれほど……」


私はイヤな予感がした。

やっぱりさっきの人影は……。


「ジェックス! 誰もいないなんて言って! やっぱりいたじゃない!」

「いや、でも……集落はなかったし……町には工事の連絡も……」

「間に合わなかったってことでしょ! 探すのよ! このままじゃ子供達が水に流されてしまうわ!」

「だが急いで水路を接続しなければ、この辺りが水浸しになってしまう」

「もう! 使えないわね! 騎士さんこっち来て! ジェックスは工事続行!」

「うう……済まない」


私は騎士さんの馬の後ろに乗せてもらい、他の騎士たちと馬車を伴って水源の方へと急いだ。

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