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第3話 ここって、孤島だよな?


 すぅ、と俺は息を吸った。定期船は週に一度という話だ。

 何をどうやってもこの絶海の島から逃げられないというのなら、早めに諦め――いや、順応するしかない。



 「えーっと、申し訳ないがアリス嬢」

 「アリスで構いませんわ。この島にはリオン様を含めても六人しか住民はおりませんもの。皆、王国とはがなく、この島に送られた元貴族。どうぞ仲良くしてくださいませ」

 「……ろく……にん」



 アリスは今、俺を含めて六人、と言った。


 ――つまり。

 要は王国で何かしらの問題を起こした貴族が、ここにいる三人にプラスしてあと二人もいるってことだ。


 あ、ちなみに俺はよくあるお家騒動で負けただけのただのすみっこ貴族。だから一応、まだ公爵家長男としての立場は残ってる、はず……だ。……多分。


 だからこの島で爵位を名乗れるのは本来は俺だけのはずなのに、さらっと貴族名を名乗ってくるあたり、どうにも平民として扱うのは難しすぎて眩暈がする。

 これは照りつける日差しのせいだよな? ……な?


 そんな俺の現実逃避に見切りをつけたのか、アリスがひらりとドレスを翻した。



 「さぁリオン様。立ち話もなんですし、ひとまずは領主邸に参りましょう」

 「りょうしゅてい」



 ――衝撃。

 こんな孤島なのに、領主邸まであるんだって。




 *




 「えぇぇぇっと、アリス?」

 「……はい?」



 何食わぬ顔で振り向くアリスに俺は本日何度目かの衝撃を味わう。

 先ほどの桟橋から続く砂浜部分には厚めの板が並べられていて比較的歩きやすかった。

 けれどさすがに島の、むき出しの地面をヒールで歩くのは無理があるだろうなと思っていたら……



 「え……っと、これなに? なんで山道がこんなに歩きやすいんだ?」

 「地面をならして適度に固めておりますの」

 「固めるって、この山道全部?」

 「えぇ、うちには薬学に精通してる令嬢がおりますので彼女の作った薬剤でこの通り。そうでなければヒールが履けませんもの」



 いや、島に来てまでヒールを履かなくても……って、思ったけどアリスはまごうことなき貴族令嬢。

 令嬢の矜持ってやつでぺたんこ靴なんて履かないのかー……ほぼ無人島生活だってのに女子って大変だなー……



 「ちなみにこの道。傍目からはちゃんとただの土のように見えますでしょう? 万が一、外部の人間に見られた時への細工ですの」

 「……細工?」



 なんでそんなものが? と彼女に疑問の目を向ければ、アリスは艶やかに微笑む。

 そして俺は彼女に案内されるまま島の高台を目指し、を見て、もはや驚きを通り越して脱力してしまった。


 そうか。この島は一応、王国領土内だから、かつてはが管理してたはず。

 その誰かって部分が問題で。


 高台の敷地を囲う鉄柵フェンスとエントランスゲートの先。小さめではあるが、孤島にはふさわしくない石造りの白亜の洋館が俺の目の前にはあった。

 豪邸の名残を残すそれは、今は壁を這うようにツタが絡まり、外壁は潮風に削られている。

 だが、よくよく見ればエントランスゲートに彫られているのは――衝撃の王家の紋章だ。



 「さぁ、こちらが元王家の別荘、現領主邸ですわ。領主邸とはいいましても、今は皆で住んでいるのですけど」

 「は?! 皆って、男女で?!」

 「えぇ、それぞれに家を建てるには人手が足りませんもの」



 …………驚いた。

 仮にも婚姻前の貴族令嬢、令息が、一つ屋根の下で共同生活してるなんて貴族の常識じゃあ考えられない。



 「……もちろん部屋は別ですわよ?」

 「うん、だよな! 知ってる!」



 じろっと視線を向けてくるアリスに俺は即座に肯定する。

 仮にも俺もアリスも年頃の男女。

 こういった閉鎖空間で男女が同室となりゃ大っ変に危険だ。……特に男にとっては死活問題がわんさかと出てくるからできるだけ距離を取って頂きたい。


 え? だって俺だってごく普通の健全な男だぞ? 分かるよな? な?



 (でもまぁ女の子と共同生活、か……でも相手は貴族令嬢だからなー……わっくわっくなハプニングがあるわけもないかー)



 そんなあり得ない淡い期待を一瞬でも考えてしまうのはやはり男のさがなんだろうなーと思いつつ、眼前の王家の紋章はひとまず無視して、俺はアリスに続くよう邸内へ足を踏み入れた。



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