序章
第1節|崩壊と再生
第1項
かつて、この国は戦争に敗れ、焦土と化した。爆撃で焼き尽くされた街並み、崩れ落ちた建物、食うにも困る毎日。
だが、人々はただ絶望するだけではなかった。瓦礫の中から立ち上がり、命をつなぎ、街を築き直した。
そして、繁栄の光が再び灯った。
花翁町もまた、その流れの中で生まれた。かつての戦後の日本のように、力強く、どこまでもしたたかに。
ネオンが絶えず輝き、夜になれば通りを埋め尽くす人々の喧騒が、街そのものの呼吸のように響いていた。
しかし、その繁栄を支えていたのは、ただの商売人だけではない。表の顔があれば、当然、裏の顔もある。
第2項.
その裏側を仕切っていたのが極優會。単なる暴力団とは違い、彼らは花翁町に秩序をもたらしていた。暴力を振るうことなく、むしろ調停役として、町民と商売人、そして裏社会の連中の間に立ち、微妙なバランスを維持していたのだ。
だが、そんな彼らのやり方を面白く思わない者たちもいた。
「町民からもっと搾り取れるはずだ」
「正義漢ぶってんじゃねぇよ」
陰で嘲る声があがることもあった。力こそすべてと考える連中にとって、極優會のやり方は甘すぎたのだ。だが、優愛と飽君は決してその道を選ばなかった。
花翁町は金だけの街じゃない。この街で生きる人間がいて、その生き方を守るのが彼らの矜持だった。
第3項.
聖都の新立法——
「裏組織犯罪収益移転防止法」及び「裏組織排除条例」が、町民に対する十分な説明もないまま発令された。
さらに「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」によって、花翁町の多くの店は解体。活気は奪われ、街は静寂に包まれた。
「花翁町の収入のほとんどは、繁華街の繁栄によって得られていた」という現実を機関は無視した。街は急速に衰退し、住民の生活は破綻し、夜の街の灯が次々と消えていった。
そして、極優會もまた、町の荒廃と共に解散を余儀なくされた。
聖都機関は失われた収入源に対する補償も、新たな職の提供・斡旋も行わず、町民たちは次々と町を去るしかなかった。
第4項.極優會會長・
優愛は黙っていられなかった。聖都に説明を求め、議員会館へ乗り込んだ。
だが、そこで彼女を待っていたのは、冷たい視線と、はぐらかしの言葉だけだった。
「国の方針ですので」
「適正な処置を行ったまでです」
優愛の質問には何一つ答えず、形式的な返答を繰り返すだけの官僚たち。無責任で傲慢な態度に、優愛の血が煮えたぎった。
「ふざけんなよ……」
優愛は周囲を見渡し、赤く染まった聖都のシンボル旗を見つけた。その瞬間、堪えきれなかった。
「何が機関だ!てめぇらみたいなクズ役人が、国を名乗るんじゃねぇ!!」
彼女はシンボル旗を引き抜き、床に叩きつけた。
その瞬間、室内は凍りついた。
第5項.収監
官僚たちは静かに、しかし鋭く優愛を見つめ、警備兵が動き出した。「侮辱罪」と「器物損壊等罪」。その場で逮捕されるのは当然だった。
この知らせが花翁町に届いたとき、若頭の
「私は大丈夫。だから、みんなが収監されるようなことはしないでほしい。これは、極優會会長としての最後の指示です。」
それが、優愛の意思だった。
こうして、極優會は解散し、
花翁町は無人の街へと変わっていった。
第6項.決意
——時が流れ、数年後。
獄中や機関機関の一部には、今回の優愛の扱いが誤りであると考える者もいた。
優愛はついに釈放された。
飽君や仲間に出迎えられ、一味は嘗て歓楽街として栄えていた町角の工房で、今後の話をした。
「おかえり、優愛。」
飽君の低くも優しい声に、優愛は微笑み、仲間たちを見渡す。
「……みんな、まだここにいたんだね。」
6名の幹部たちは、かつての花翁町を想いながら、それでもこの土地を離れなかった者たち。彼らはそれぞれの形で生き延び、再びこの場に集った。
その夜、8名は話し合いを重ねた。
「このままじゃ、花翁町はただの廃墟のままだ。」
「けど、あの頃の街に戻すのは無理だ。機関が許さねぇよ。」
「だったら……この街を、もう一度、俺たちの手で生きられる場所に作り変えるしかねぇ。」
8名は決意した。かつての繁華街ではなく、嘗ての裏社会でもなく、人々がもう一度生きていける街を作る。それが、聖都の圧政に対する静かなる反逆だった。
第7項.BLOOD & BREAD
——そして、
復興の象徴として、優愛と飽君はパン屋「BLOOD & BREAD」を開業した。
残りの6名も、新たな決意を固めて、この花翁町でそれぞれの道を歩む。
焼きたてのパンの香りが、かつての繁華街の路地に漂い始める。鉄の意志を持つ者たちが、全てを奪われた地で、新たな戦いを始める。
これは、かつて聖都に抗った者たちの、
静かなる反逆の物語。
序章主題歌
https://youtu.be/D7hp7h2t_ys?si=OAQWAxq6LKPtWpPZ