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第253話 揺れ動く三冠王国

 グレースの休養に伴い、カールが帝国大学より呼び戻された。

彼は試験無しで王都学園に編入され、残りの勉学はそこで励むこととなった。

だがカールはまだ12歳、若すぎるのではとの心配が学園長のイルゼからもたらされた。


 だがこれに関しては、カールの先生であるチャーチル卿のしたためた書簡で解決した。

無事に学園に編入されるはずであったが、カールは1つ疑問を唱えた。

それは学園のクラス制度についてであった。


「クラスがランク付けされているのはまだいいとして……なぜ選択できるのが剣術科か魔法科だけなの? 帝国大学はもっと色々学べたよ?」


「申し訳ございませんカール様。我が校では昔からの伝統でこうですので……」


「旧態依然とした伝統だねぇ。まぁいいや。僕もルフレイさんとお姉様と同じ魔法科にするよ」


「魔法科ですね。畏まりました」


 少し不満そうではあったが、そういうものだと理解して妥協してくれてよかった。

でも旧態依然は12歳の子供の口から出る言葉ではない気がする。

元からこうであったのだろうか? それともチャーチルがなにか吹き込んだのか?


「カール、頑張るんだぞ」


「うん。ルフレイさんみたいに僕も頑張るよ!」


 カールはそう言って右手でVサインを作る。

このジェスチャーは絶対にチャーチル仕込みだな……

だがカールもチャーチルのことはいい先生だと思っていたらしいし、まぁ良いか。


「では俺はこれにて。カール、学校が急に変わって大変だろうとは思うが、頑張るんだぞ?」


「うん! じゃあねルフレイさん!」


「あぁ。また会おう」


 俺は立ち上がり、懐かしい学園から去ろうとする。

廊下を歩いていると多くの生徒から声をかけられたが、全員に応対していられないので笑顔だけでごまかす。

歩いている途中ふと左を見ると、そこには懐かしい食堂があった。


「……昼を食べていなかったな。せっかくだし食べに行こうか」


 俺は素知らぬ顔で生徒の列に並ぶ。

ちらりとメニューを見ると、見たことのある名が並んでいた。


◯毎日無料!学園食堂メニュー表


・オーク肉のソテー ←本日オススメ!

・ホーンラビットのほろほろ煮込み

・アクアマンサーのムニエル

・すべてにパンとスープは付いてきます


「懐かしいな。あの時と同じか」


 学園編入試験の時、グレースと食べたメニューと同じだ。

俺もグレース確か……オーク肉のソテーを食べたんだったな。

自分の番になると、俺は食堂のおばさんに注文を言った。


「オーク肉のソテーをひとつ」


「あいよ……ってあんた、女王様と一緒にいたルフレイかい? あんた随分とお偉いさんだったんだねぇ。いくつもの戦争で勝って、今や大国の皇帝様じゃないか」


「それほどでもありませんよ」


「そんなことないと思うけどねぇ……あっ、注文の品は変わらずあっちで受け取っておくれ」


 前までと何ら変わらない場所で料理の乗ったお盆を受け取り、俺は座る席を探す。

するとちょうど1席だけ空いていた。

たしかこの席は……グレースと半分にして座った席だな。


「ふふ、いただきます」


 俺はかつて食べられるのか、と思っていたオーク肉を口に放り込む。

それは在学中に何度か食べた味であり、なんとも懐かしい味であった。

すぐに俺は平らげてしまい、お盆ごと食器を返しに行く。


「ご馳走様でした。相変わらず美味しかったです」


「あら、嬉しいわねぇ。そうだわ、これを持っていって頂戴」


「? これは?」


「さっきあなたが食べていたオーク肉のソテーよ。余っても仕方がないからぜひ食べて」


 ちょうどいい、今からフランハイムに行くからお土産がてらに持っていこう。

俺はありがたくソテーをもらい、食堂をあとにする。

腹ごしらえを終えた俺が校門前の広場に出ると、ちょうど迎えがやってきた。


 ババババババ……


 大きな音を立てながらオスプレイが姿を表す。

プロペラを上に向けた状態でゆっくりと広場に降り立ったオスプレイに俺は乗り込んだ。

周りにいた生徒たちは、何が来ているのかさっぱり分からずに困惑している。


 そのままオスプレイは離陸、進路をフランハイムに取った。

途中で空中給油を、ミトフェーラに展開しているKC-130から受け、無事に到着する。

給電前に降り立ったオスプレイから俺は降りた。





 コンコン


「どうぞ〜」


「グレース、元気にしていたか?」


「あらルフレイ、いらっしゃい」


 俺は宮殿内のグレースの部屋へと案内してもらい、中に入る。

中ではグレースが半身を起こした状態でベッドに座っていた。

俺は横においてある椅子に座り、帽子とソテーを机の上に置く。


「カールはきちんと転入できたかしら?」


「あぁ。何とかうまく折り合いをつけてきたよ」


「ありがとう。助かるわ」


「構わないさ。カールもなんだかんだ楽しそうだったし良かったよ」


 俺は喋っていると、ソテーの存在を思い出した。

だがここまで運んでくる過程でだいぶん冷めてしまっているな、温めないと。

そう思っていると、俺は部屋に置かれている電子レンジを発見した。


「ルフレイ、それは何?」


「学園の食堂のオーク肉のソテーだよ。俺が学園編入試験を受けた時に一緒に食べただろう?」


「そんな事もあったわね。懐かしいわ。学園はどうだった?」


「俺たちがいた時と、良くも悪くも何も変わっていなかったよ」


 そう話しているうちにレンチンも終わり、中から熱々になったソテーを取り出す。

それを部屋に用意されていたフォークとナイフを付けて机の上に置いた。

グレースは食べるために立ち上がり椅子に座り、俺が代わりにベッドに腰掛ける。


「懐かしい味……学園時代を思い出すわね」


「良いことも悪いことも、色々あった良い時間だったな」


「良いことも悪いことも……そうね、全部が悪いことではないわ」


「そうさ。楽しいことだっていっぱいあったさ」


 そう話すグレースの顔には少し笑顔が浮かんでいた。

この様子だと思ったよりも早く復帰できるかもしれないな。

そう思っていると、グレースは急に違うことに話を振った。


「ところで話が変わるんだけれど……ベアトリーチェ様って本当に優しいわね。まさに女性の鑑、という感じがしたわ」


「ベアトリーチェはその分だけ生きているからね……」


「それでもよ。私、色々と頑張ってみるわ!」


「色々……って?」


 俺が聞くと、グレースは一息ついて答えた。


「男の人付き合いよ。少しずつリハビリ頑張ってみるわね。ベアトリーチェ様がいればできそうな気がするわ」


「そうか……そう簡単なことではないと思うが頑張ってくれ。俺も来れる時はこちらに来ることにするよ」


「ありがとうルフレイ。本当に頑張るから見ていてね」


「あぁ。見ているとも」


 その後俺たちは少しの間他愛の話しを楽しんだ。

迎えのヘリが来たことを魔族のメイドから告げられた俺は、グレースに別れを告げた。

その日中にイレーネ島に帰還した俺は、普段通りの公務へと戻った。





 一方の三冠王国の構成国、ゼーブリック王国では……


(くっそ、なぜ俺がこんな目に……)


 王城前の広場では、ロイドがバンツ以外の全ての身ぐるみを剥がれて十字架に掛けられていた。

別に処刑をするわけではないが、この国の慣習法として残っていた『強姦は磔刑』に則った刑罰であった。

ロイドは釘の代わりに鉄の輪っかが腕と足にはめられ、口には猿轡が噛まされていた。


(あいつがいなければ成功していたのに……既成事実を作ってしまえば結婚は確実だ。俺とグレースが結婚すれば三冠王国の結びつきはもっと強くなる。なぜ理解できんのだ老人どもめ)


 そう思うロイドの顔に、急に水が掛けられる。

下を見ると、泉から組み上げた水をためた桶を持っている女たちがいた。

強姦にて磔刑に処されたものには、こうして見物人が水を掛けることができる仕組みになっていた。


(おのれ、俺は王族だぞ! 王族なんだっ!)


 そう思いながらロイドは女たちを睨みつける。

その眼光に気圧された女たちは、桶を置いてそそくさと何処かへと去っていった。

このような見せしめの磔刑は、三日三晩続いた。


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